後藤春彦 著

A5判・240頁・定価 本体2600円+税
2007.10.15発行
ISBN978-4-7615-2414-2

■■内容紹介■■
大きな岐路に立たされている都市計画の課題を解決する鍵が景観にあるのではないか。生活者によって共有されてきた社会的な記憶「地域遺伝子」をどのように把握し、いかに景観として表現するか。内発を軸としつつも外発をも受け入れる共発まちづくりをすすめるための理論と、実際に取り組んできた景観まちづくりの7つの事例。


 
読者レビュー

並みをどう作るか、心地よい景観とは何か、自然との調和は……以前は、都市計画や建築の専門家、もしくは行政の担当者が街の景観を考え、計画や施策を作れば良かった。しかし、生活者の意見が重視されるようになり、マスタープランへの参画なども含め、「市民の出番」は増えてきている。街の景観が、単に美観だけでなく、地域の活性化や環境問題など、多様な課題とつながっていることも認識されてきた。
  まちづくりの思想と実践を概括する本書は、専門家や関係者にとってももちろん有益だろうが、1人1人の市民が景観を考え、その力を活用していく際の助けになる。
  これまでの研究の潮流をふまえ、景観とは何かを説き、地域遺伝子、生活景、都市美、場所の力、共発まちづくりなど、キーワードを効果的に配しながら、現状と課題、ビジョンを描いていく。
  本書を読みながら、いくつかの巨大ショッピングモールの風景を思い出した。国内外どこを訪れても同じような作りで、テナントも、人々の表情さえも似通っている。生活の均質化は景観の均質化でもある。地域に受け継がれた暮らしの記憶=地域遺伝子に着目し、それこそが景観の規範になるとする筆者の考えに触れ、均質化した現代の暮らしの建て直しを、景観から考えていくことができそうだと感じた。
  第2部では、地域遺伝子探しをしている熊本県宮原町(現・氷川町)など、8市町の実践例が詳しく紹介されている。バッハホールで知られる宮城県中新田町(現・加美町)の町役場に、筆者は20年前に在職し、ここを「まちづくりの最良の教室であり実験室」としていたそうだ。各事例を読むと、まちづくりの手法や進め方、何を資源とし、何を作っていくかが、その地域地域に応じて実に多様かつ柔軟に考えられていることがわかる。景観まちづくりはマニュアル化できない。だからこそ、こうした1冊が重みを増すのだとも実感した。
(読売新聞東京本社生活情報部記者・福士千恵子)

観法が施行され、行政においては、景観行政団体になって景観施策を推進する自治体もあれば、まったく景観とは縁遠い自治体もあり、その温度差が広がっている。私が所属する(社)静岡県建築士会は、静岡県と三島市から景観整備機構の指定を受け業務に取り組んでいるが、関係する自治体から、景観をどのようにとらえればいいか、また何からどのように取り組めばいいかわからない、という声をよく聞く。
 本書は、この2つの疑問に明解に応えてくれる。読者は「景観まちづくりの思想」と題した第1部によって、1つ目の疑問を解くはずである。
 景観は表層の美醜を議論するのではなく、景観の基盤を見ること、すなわち景観を下支えしている地域をよく掴むことが重要であると説いている。単なる要素の集合ではなく、全体としての構図や体系の把握こそが重要なのである。それを「氷山の一角」にたとえ、水面下の視覚的に見えない様相の把握が大切であることを論じている。
 景観は往々にして見た目のかたちを問題視しがちであるが、そうではない。景観は生活の営みが色濃くにじみ出たものであり、地域に積み重ねられた生活の総体を問題にすべきなのである。だから、それは景観に刻まれた歴史を読み解くことであり、著者が説く「場所の力」を顕在化することなのである。
 2つ目の疑問には、第2部の7つの実践例から示唆を受けるはずである。
 景観はまちづくりの成果が表出したものであるという著者の理論がすべてを語っている。景観に取り組む施策展開は、いかに活力ある地域にするかというまちづくりに取り組むことなのである。その成果がよい景観を生み出していく。景観をよくしたいという意思が先にあるのではなく、いかに地域にあるポテンシャルを探り活かすかというまちづくりの思想が重要なのであり、7つの事例はそれを実践として示している。
 本書は、2006年に我が国の人口が減少に転じた大きな時代の潮流の中で、何を求めていけばいいかの針路を示しているともいえる。
 新幹線型であった20世紀のまちづくりに対して、21世紀のまちづくりは「七福神の船」型であるべきことを論じている。その上で外部要因に依存する「外発」と地域主義を優先し地域内で閉じた「内発」の両者が、ハイブリッドに位置づけられる「共発的まちづくり」を提唱している。読者はこれからの目指すべきまちづくりの方向を、この提唱によって理解するはずである。
((社)静岡県建築士会景観整備機構副代表 塩見 寛)


担当編集者より

らすら読める文章ではありませんが、難解ではなく、一文、一文に含蓄があり、 その向こうに豊穣な後藤ワールドが見えるような文章です。
  「「景観」のもつ力や、「景観」の概念に内在する「風景」と「地域」の相互依存 性を読者に伝えることをめざして、さまざまな話題に触れている」と「はじめに」で 書かれていますが、まさに、これがジワジワと伝わってきます。
(Ma)