小野暁彦・門脇哲也・乾陽亮 編著

A5判・288頁・定価 本体3000円+税
ISBN978-4-7615-3158-4
2007.11.30 発行

■■内容紹介■■
近年活躍する構造家達の合理的思考とデザイン観を一望する。ローコスト住宅、素材にこだわる素朴な挑戦、ベテラン建築家との大規模プロジェクト、最も前衛的な建築家との話題作まで幅広い試みが語られる。構法や施工の設計活動だけでなく建築家や施主とのやりとりにおける態度まで、知られてこなかった職能の醍醐味に迫った。


読者レビュー

計行為の醍醐味は、建物が完成した段階での建築家のコメントからはおおよそ知ることができない。設計者の不利になるような情報は書かれないし、なにより設計者にとっては結果としての建築のほうがプロセスよりも重要だからである。
  構造家と設計者との間で折り合いがつかないときはどうするかといったエピソードや、そのあげくに没になってしまった案など、竣工した状態からははかり知ることのできない興味深い設計過程を、構造家の立場から語った連続講演の記録が本書である。写真も豊富に載っているため、さまざまに異なる建築家と構造家のかけあいの様相や、施工されていく現場の詳細を、あらためて追体験しているような気分にさせてくれる。そして講演後、編者と会場にいた人々の質問により議論はインタラクティブに進行する。巻頭ではメールアートのような往復書簡がいまの状況をうつしだす。師匠と弟子との関係や確執の語られようも面白い。
  しかし、興味深いのはそれだけではない。さまざまな建築家のプロジェクトを構造家側から俯瞰した視点をとっているため、逆に建築家による空間の組みたて方のエッセンスが明らかになる。またコンピューター解析を用いたプレゼンテーションを通じて、先進的かつ実験的なシステムがダイアグラムなどでしめされ、ヴィヴィッドな構造がいかに新しい建築空間を触発するかが非常にわかりやすく述べられている。近年、建築雑誌においてもテーマをしぼった特集が減り、多様な情報を表面的に伝える傾向がつよくなっているなかで、これは新しい切り口が建築の新しい見せ方の可能性を開いた稀有な本だといえる。
  これから設計をこころざす実施経験のないものに理解できる簡潔さと、設計活動中のものに深く読み込める奥行きを兼ね備えたこの本は、現在において建築空間を思考していく際の格好の参考書となると感じた。
(アルファヴィル代表/竹口健太郎)


担当編集者より

のもとになる講演で毎回印象に残ったのは、構造家の方たちの触感溢れる話しぶりでした。柱一本の形や位置を、なぜ、どのように判断して決めたのか、まるで材料や建物に触れながら指し示されるように述べられます。
  本にもその触感をなるべく残したいと努めました。なるべく曖昧さを省こうとされる具体的な言葉づかい、竣工写真に慣れた目を開かせてくれるような実験・施工中の写真に、ようすを感じ取っていただければ嬉しいです。
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