門司・小樽・横浜・函館を読む

岡本哲志+日本の港町研究会 著

A5判・208頁・定価 本体2200円+税
ISBN978-4-7615-2430-2
2008.4.30 初版発行

■■内容紹介■■
幕末から近代という歴史の大きなうねりのなかで形成された港町の空間の魅力は、脈々と繋がる歴史を継承した都市形成のプロセスにある。ここでは代表的な四つの港町を訪れ、変転の歴史が刻まれた街の記憶をよみ歩く。表層的な観光だけでは知ることのできない、空間の奥行に秘められた歴史浪漫をたどる、新しい街歩きの視点。


 
読者レビュー

本は島国でありながら港湾都市に関する研究や出版本の類の少なさにおどろかされる。そこには港湾を特異な機能のうえで成り立っているというある種の偏見があったのかも知れない。近代期に入り、いち早く鉄道を中心に港湾都市計画を推進したのがロンドンやニューヨーク、ボストンであったが、日本においては少なくとも軍都としての港湾施設の範疇で語られてきた感がある。ところがそこには歴史的な側面を踏まえて日本独自の港まちづくりのプロセスがあったことを丹念に解読したのが本書ある。
 本書はその対象港町として門司、小樽、横浜、函館を採り上げ、それぞれの時間軸と場所性、土着性に応じて異なった都市の姿と表情を挙げ、さらに将来に向けてのメッセージが近代化のプロセスにあったと主張する。山を背負った神社と港、その間に広がる倉庫群、商業施設、花街といった土地利用の歴史的な因果関係を海軸で紐解き、中世以前と近世から明治にかけての都市構造の遺構と継承であったことを読み解くのである。港に流れ込む都市の重要な交通路のひとつであった河川や運河を建築物のファサード(正面)として捉え、海側から陸側へと都市空間の面的広がりと連続性を掲示している。こうした日本独自の都市発展において港に沿って導入された近代都市計画手法のグリットプランによる都市軸によって説明するのであるが、そこには近代と現代とのはざかい期、つまり、遺構と保存、あるいは再生という新たな港まちづくりの局面を迎えていることも懸念する。これらは何も対象都市に限らず、港町再生を抱える他の自治体に向けての危惧でもあろうか。
 いずれにしても本書は、近代港町が中世、近世を受け継ぎながら、海に向けられた豊かな空間をつくりだした都市の形成と構造の仕組みを明らかにしたものであり、将来に向けて数珠玉のようなメッセージが詰まった一読に値する書である。
(東アジア都市・建築史家 博士(工学)、鞄結}設計コンサルタント/田中 重光)


担当編集者より

光化が進み、漂う浪漫を求めて訪れる人も多い港町。しかし、メインストリートや残された近代建築を見るだけでは、まちを十分に堪能したとはいえない。
著者らは、見知らぬ土地を調査し、海・神社・かつての花街などの関係性を紐解き、空間の「軸」を見抜く。そのプロセスは面白い。
港町を訪れた際には、場所に秘められた歴史を感じながら、少し小径にそれたり、高台から海を見下ろすことをしてみよう。新たな発見ができるかもしれない。
(N)