台所・風呂・洗濯のデザイン半世紀

和田菜穂子 著

A5判・232頁・定価 本体2500円+税
ISBN978-4-7615-2442-5
2008.9.10 初版発行

■■内容紹介■■
1910〜60年代、それまでの盥と桶から台所流し、浴槽、洗濯機へ、水まわり設備は進化し、独自の水まわり空間を定着させた。技術とデザインの革新、流通・消費の開拓によって水まわり設備がいかに誕生・普及し、生活空間に取り入れられ、ライフスタイルを変えていったのか。わが国の住空間の近代化を「水まわり」から読み解く。


 
読者レビュー
 昭和30年代生まれの私にとって、幼い頃の住まいの記憶は水回りの風景と強く結びついている。その中でもとりわけ日々の風呂炊きのノルマのことは今でも時々思い出す。当時わが家の風呂釜は、床面より低い位置にある焚き口に薪やコークス、新聞紙や紙くずを入れて燃焼させ、その上部にある湯船の底を熱する方式の風呂釜だった。火種を絶やさないように常に注意していなければならず、子供にとっては過酷な労働だった。この本によるとそれは<チョーホー風呂>の改良バージョンで、それでも発売当時は文字通り〈重宝〉がられていたらしい。
 たまたまであるが、1950年代に建てられた古いマンションの内部を調査する機会があった。機能的なハッチが設けられたコンパクトな台所、共用階段室の照明を取り入れるように工夫された水洗便所、小判型のかわいらしい木製桶風呂など、半世紀前の標準的な水回りの様子をつぶさに見ることができたが、なぜか洗濯機置場だけは特定されていなかった。(著者が言うには)家事の中でもっとも非合理的であるはずの洗濯、その場所があいまいになっている、その理由についてはこの本の中できちんと述べられている。
 各ページに掲載されている興味深い図版や写真の数々は、かつての日本の家の内なる日常風景を作っていた様々なモノやスペースの断片的な姿である。著者はそれらを時系列に沿って、あるいは機能別に、その時代背景を含めて丁寧に整理して解説している。その分析から見えてくることとは、近代ニッポンに現れたデザインが、近代という枠組みを超えた日本の文化に深く根ざしている点である。例えば著者は、電気洗濯機やガス風呂のデザインの変遷が、盥や桶という伝統文化とシンクロしていることを明らかにしている。そうした意味でこの本は、単に設計者にとっての実用書や研究者にとっての歴史本といった類ではなく、〈ニッポン人〉の〈水〉への作法を綴った文化人類学書といってもよいだろう。
(建築家、東海大学教授/岩岡竜夫)

担当編集者より

 私たちの生活に欠かせない水。その水と日本人の暮らしについて道具から眺めてみると、実に面白い発見があることをこの本は教えてくれる。普段何気なく使っているキッチンや浴槽、洗濯機の歴史は、日本人(とりわけ女性)の近代生活史の中でとても重要な位置を占めている。水まわりの歴史に焦点をあててまとめられた本はこれが最初となる。近代に関する歴史研究に新風を吹き込むテーマとして、是非ご一読いただきたい。
(MH)