読者レビュー
本のタイトルを考えるという作業はなかなか難しい。内容を適切に表したい、潜在的読者の興味を惹きたい、背表紙で見栄え良くしたい、などなど。本書のタイトル『景観まちづくり最前線』は、この点、ストライクの直球勝負である。全国各地の景観まちづくりを牽引する景観法「最前線」の事例が、景観まちづくりの現場に最も近い「最前線」にいる行政担当者と実務家によって報告されている。また、実務にも通じた研究者によって書かれた最終第4章は、「最前線」のさらにその先への手がかりを与えてくれるものとなっている。
本書は、景観まちづくりの中でも、景観法という法律にもとづく試みを中心に取り扱っているから、一見すると、行政担当者やコンサルタント、研究者といった専門家向けに見えるかもしれない。もちろん、専門家にも有益な1冊であることは言うまでもない。しかし、実は景観やまちづくりに関心をもつ市民にこそ読んでほしい。本書で取り上げられている事例は、いずれも先端例といってもいいと思うが、ただ行政とコンサルタントのみが苦労して実現したわけではく、全ての事例には住民・市民が存在し、その合意があってはじめて到達できた最前線ばかりである。しかも、ある者は「もっと景観をよくしたい」と叫ぶ一方で、ある者は「景観よりももっと優先すべきものがある」というせめぎ合いの結果としての合意である。だから、事例をみて「あの町は凄い、とてもこんなことはできそうにもない」ではなくて、「どこでもこのようになれる」と読むべきなのである。そして、大事なことは「景観法をどう使っているか」ではなく、「何をやりたかったのか」を読み取ることである。
「最前線」は遠い、手の届かないところにあるわけではない。ちょっとした視点の転換で、意外に近いところにあることを気づかされる。だからこそ、これから景観まちづくりを始めようとする地域にお勧めの1冊である。
(東京工業大学大学院社会理工学研究科教授/中井検裕)
景観法の基本的な姿勢として、法律上景観行政団体として位置付けられた都道府県や政令市などの一部の自治体を除き、景観行政団体への移行や、景観法に用意された数々のメニューを活用については各自治体の判断に任されています。
地方分権が進展する中、都市間競争が激化し、住みやすく、魅力ある都市へとしていくこと、また、次々に発生してくるまちの課題に対処していくこと、そうした地域らしさに応じた施策の展開が求められています。
そして、解決の糸口を「景観まちづくり」に求めて、景観法を積極的に活用するべく、景観行政団体へと移行する市町村が年々増えてきているのではないでしょうか。
八王子市は、高尾山や浅川に代表される豊かな自然景観、宿場町・織物の町として栄えてきた歴史的・文化的な景観、また、経済・交通の要衝として発展し、現代的な様相を見せる景観など、様々な特性を合わせ持っています。これは本市の魅力である一方、多様な景観特性をバランス良く発揮するための施策を必要とし、景観計画策定に向けた取り組みを進めているところです。
魅力的な景観形成のためには、景観法だけでは不十分で、都市計画法や市民活動などとの総合連携が必要です。そこで、日々「八王子らしさ」を問いかけながら景観計画の策定に取り掛かっておりますが、非常に困難な作業だと実感しています。そのような中、本書を手にしてまず目を引くのは、帯に記された「わがまちの実情にあった景観施策をどう進めるか」という言葉です。特に、景観計画の運用を見据えて検討すべきポイントや課題等が実例に基づいた最新の内容で整理されており、多くの課題を整理し、施策としてまとめ上げていくためのヒント集として大変有用です。
自治体のやる気と「景観まちづくり」への力量が強く求められている社会的状況にある中、景観施策の企画・立案に向けて多くの検討課題に直面している行政担当者に勇気を与えてくれる一冊です。
(八王子市まちづくり計画部都市計画室主査/久田伸之)
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