創造的まちづくりへの方途

宗田好史 著

A5判・232頁・定価 本体2500円+税
ISBN978-4-7615-2451-7
2009.2.25 初版発行

■■内容紹介■■
京都の町家再生は、単なる建物の保存・利用ではない。古さの中に宿る伝統や文化に新たな価値を見出し、創造の場を育み、分断されていた市民をつなぐ、まちづくりの転換だった。町家の良さを再発見した住み手、経済価値を見出した事業者、都市計画を変えた景観政策、町家を支えた市民活動に焦点をあて、まちの活性化を考える。


 
読者レビュー
 この10年程の京都の町家再生の動きには、まさに目をみはらされる。本書は、京町家の再生がいかなる背景で、どのように実現されてきたか、その全体像を見事に描き出す。感動のドラマの記録でもある。京都の町家に関しては、建築の空間やデザインの特徴、人々の伝統的な暮らし方など、繰り返し論じられてきた。この本は、こうした認識のレベルを大きく突き破り新時代を切り開く、待望のアクティブな町家論といえる。
 著者は、若き日にイタリアに長い間、留学した経験をもつ。歴史都市が現代のセンスで蘇り、生活の場として、また文化を創造・発信する場として輝きをもってきたイタリア都市の状況を、克明に調べ、その仕組みを研究してきた。
 その眼には、京都の開発と保存という難しい問題を解くための方法が、従来とは違う形で予感できた。ゼミの学生達と膨大なエネルギーをかけて行った町家への訪問ヒヤリング調査が、出発点となっている。名も無い質素な町家にも価値を見出す。住み手の意識が変わり、調査に600人もがボランティアで参加したという。町家再評価、そして再生へと展開する運動をまさに著者自身がつくりあげた。
 著者は、町家の所有者・住み手、大工職人、大学研究者、行政の方々との出会いを大切にし、多くの人達とネットワークをつくり、厚い信頼のもとに恊働で活動を広げた。おおいなる目標を共有する幾つものグループが連携し、知恵を発揮し、難しい状況を切り開いて、町家を再生活用することの素晴らしさを実現してみせたのだ。
 市民・住民の意識の変化を背景に、行政の思い切った政策も引き出され、京町家は、いい形で蘇ってきている。老舗も頑張る一方、若手やアーティストがクリエイティブな感性で自己を表現できるインキュベーターの役割も担っている。過去と現代が共存する場としての町家、そして歴史的都市空間。京都発の都市づくりの新たなモデルを、本書は魅力的に示してくれる。
(法政大学デザイン工学部教授/陣内秀信)

担当編集者より

 私自身を振り返ってみると、30年前には、町家があるということは当たり前すぎて、それが美しいかどうかなんて考える対象ではなかった。ちょっと知識が入ると、とんでもなく窮屈な世界で、丁稚や奉公人がいじめられていたって感じである。寒くて暗いうえに怨霊が住み着いているに違いなく、早く足抜けしたいという人が多いのも当然すぎるほど当然だと思った。
 それが、この15年ほどだろうか、えらく美しく見えてきた。あげく、古ぼけたよれよれのお家でも、現代建築よりは綺麗に見えてしまう。同じものがどうして違って見えるのか? 私だけならともかく、結構そういう人が増えているのは何故か?
 十全に、とまでは言わないが、本書を読むと何故か が見えてくる。それは一人一人の心の変化であり、それを誘発した感性あふれる人達の動きだ。そういった変化こそが、制度や計画を越えて、まちづくりの方向性を大きく変えうる力だと見えてくるに違いない。
(Ma)

 町家に住むことに憧れをいだいていた。それが叶って実際に暮らしてみると、寒いし暗い。でも、自然を身近に感じられるし、建物が生きている気がした。町家という建物には、魅力的な雰囲気がある。そこにずっとあって、人の暮らしが刻まれて、まちを形成してきたからだろう。
 町家は京都だけのものではない。それぞれの地域に、暮らしや仕事を支えてきた住まいがある。
 空き家になってしまっても、新しい人がそこで新しいことを始めれば、たちまち町家は活き活きと甦り、私達に発見をもたらしてくれると思う。
 維持するのは並大抵のことではないことが、本書からもよくわかる。しかし、町家が取り壊され、マンションと駐車場に変わるたびに、京都の将来像は貧弱になる気がしてならない。
(N)