まちづくりへの役立て方

住民主体のまちづくり研究ネットワーク 編著

A5判・368頁・定価 本体3800円+税
2009.3.10 第1版第1刷発行
ISBN 978-4-7615-3172-0

■■内容紹介■■
地方分権と住民参加の流れにおいて、都市計画は益々住民に身近な存在となりつつある。真に住民主体の都市計画が行われる時代に向けて、住民が中心となった最新の取り組み事例を検証。都市計画を住民が使いこなすには何が必要か、住民と行政の役割分担、狭域と広域の論理の整合性を、第一線の若手実務者・研究者が問い直した。


 
読者レビュー
 ずいぶん分厚くて重い本だ。全国から26の事例が選ばれ、各々が10ページ前後で紹介されていて読み応えがある(終章としてコアメンバーによる論文も収められているのだから内容的にも重い)。
 本の中味と無関係な感想を二つ。ひとつには、31人の執筆者のほとんどが1970年代生まれ(それも前半)の皆さんだということ。30代後半から40歳という年齢層には、編集意図を共有できる、これだけの専門家や実務者がいるのだ……。世代論は好きじゃないが、ボリュームゾーンですね。もうひとつには、2年という執筆期間に、編集意図の共有から始まって最後には草稿をお互いに読める状況までつくり出しているのに感心した。これはもちろんインターネット環境が可能にしたわけだが、同じ世代ということもあって、いかにも軽やかに行われている印象で羨ましい。90年代に渡辺俊一さんを中心に「都市計画フォーラム」がネット上で展開されたが、今回の執筆者たちによる「住民主体のまちづくり研究ネットワーク」は同世代限定の切磋琢磨ネット(?)なんですね。
 内容について一言だけ。タイトルの意図に関連し「はじめに」と「おわりに」でも、まちづくりと都市計画の相違にふれられているが、その割には各々の事例が肝心の「都市計画」に迫っていないように思う。「都市計画」とは、空間の計画、規制・誘導、事業であるとされていることに異論はないが、それならば、やはり、各事例で「制度(とりわけ都市計画法の線引きや開発許可、建築基準法の集団規定、および土地利用にかかわる自治体条例)」が果たした効果や限界、さらには制度が空間づくりの阻害要因となっていなかったのか、等が説明されるべきだったろう。住民主体の意義は大きいが、根底にあるのは制度であって、制度の疲労がわが国都市計画の脱皮・改善を妨げていることは間違いない。制度の改定が上からでなく(現に「都市計画法の抜本的改正」を国が本気で進めている)、今回の事例のような「個別・具体」の積み上げでなされるためにも、制度とのかかわりの分析にもっと力が入れられてしかるべきだったと思う。それを、著者たちの今後の研究や著作への期待としておきたい。
(高見澤邦郎/明治大学建築学科客員教授)

 都市計画とまちづくりの関係は常に結論のない議論であった。本書はこの議論に果敢に取り組み、両者間の関係を再定義し、新しい関係を導き出すことを目的としている。ここでの編著者による再定義は、「都市計画をまちづくりが活用する関係」になったということである。これまでのまちづくりと都市計画の関係は、都市計画への反対やアンチテーゼとしてのまちづくり、または都市計画をうまく実行するためのまちづくりという位置づけであった。しかし、そのバランスが崩れる時代が来ただけでなく、むしろ現在ではまちづくりが都市計画を包含していると編著者たちは論じている。
 本著では、この新しい流れを示すものとして、様々な事例を体系的に紹介している。編著者たちの主張として、やわらかいが継続するのが難しい「まちづくり」と、かたくて継続性が高い「都市計画」は、関係をうまく保つことによって、より良い、柔軟な都市づくりにつながるという考えがある。しかし、実態としては都市計画のシステムをツールとして活用しているつもりが活用されているということが起こり得るため、その点は注意して論じる必要がある。もっとも、筆者たちはそういった認識も持ちつつ、あえて関係性をポジティブにとらえたのであろう。また、自戒を込めて言うが、まちづくりを万能の存在としてとらえるのは危険であり、その点本書では、各事例を執筆した専門家による独自の視点と、編著者による再解釈を通して、まちづくりという存在を十分に客観視した上での分析を行っている。
 ともあれ、大きなうねりとして、まちづくりが都市計画に与える影響がある一定のレベルまで達してきていることがこの本から分かる。そういった影響力に対する分析軸が、最後に編著者らが示した5つの軸(主体・計画・規制・事業・時間)であり、細かいレベルでの影響力を図る上では、これは重要な示唆となり得るであろう。本書は、日本のまちづくりの現状を網羅して示すものであり、こういった帰納的分析を積み重ねることが、今後の手法としての都市計画だけでなく、計画・ビジョンとしての都市計画とまちづくりの関係を、これからの研究者や専門家が示していく上での基礎となる。
 従って本書は、まちづくりと都市計画の現状での関係性とその議論を知りたい読者には基礎的な参考書となるであろう。
(金沢工業大環境・建築学部建築系講師/内田奈芳美)

担当編集者より

 だいたいの執筆者が決まり、執筆者全員で共有するメーリングリストが立ち上がったのが07年9月。そのMLと編集コアメンバーとのメールのやりとりを一つにフォルダに集めているが、なんと1300通近くになっている。
 特に終章をめぐるコアメンバーのメールのやり取りは凄まじかった。
 これを手紙でやりとりしていたら、とっても出来そうにない。集まるのも無理。さすが文明の利器ではあるが、ここまでするの?という感じもしないではない凄さだった。
 それだけの密な議論を経て出来上がった本なので、是非、ご高覧あれ!
(Ma)