世界の地球温暖化対策
再生可能エネルギーと排出量取引


浅岡美恵 編著、新澤秀則・千葉恒久・和田重太 著

A5判・176頁・定価 本体1900円+税
ISBN978-4-7615-1258-3
2009-08-10 初版発行

■■内容紹介■■ 
世界は持続可能な成長を築く低炭素経済への大転換に舵を切った。エネルギー政策、排出量取引制度とそれを総括する法整備について、ドイツ、イギリス、EU、アメリカの最新の動きを解説。ポスト京都を見据えた欧米の飛躍に対し、省エネ先進国との自己評価に慢心し、野心的な目標と実効性ある制度を設計しえない日本への警鐘。


読者レビュー
 鳩山首相は、我が国の温室効果ガス削減中期目標「2020年までに1990年比25%削減」と、麻生前政権の「2005年比15%」(90年比8%減)より大幅に踏み込んだ目標を、内外に高らかに発表した。国連の場では、さらに途上国支援「鳩山イニシアチブ」を提唱し、先進国の官民資金での貢献、途上国の排出削減検証可能ルールの策定、資金の透明性と実効性を確保する国際システム構築について、先進国が協調してその責任を果たそうと呼び掛けた。オバマ政権の緑のニューディールに続き、2009年の日本の政権交代が地球温暖化の大きなチェンジとなってほしい。
 こうして日本は、世界の温暖化対策の最前線に躍り出た。本書は、まさにタイムリーに、わかりやすい道標となった。明日のエコでは間に合わない。2050年に1990年水準から半減するだけでなく、気温上昇を最小限にするためには、その過程の2020年までに排出を頭打ちにし、25〜40%の削減をというのが昨年バリ島でのCOP13の結論である。先をいくEU諸国の先進的な取組みは、明日の我が国の取組みになる。
 本書の第T部では、欧米の脱温暖化の動きを示す。ドイツの「統合的エネルギー・気候プログラム」イギリスの「気候変動法2008」、EUの「ポスト2012」、そしてブッシュ政権下でも進んだアメリカの州やNGOの熱心な動きの深い意味が説かれる。第U部では、より具体的に、2000年のドイツの「再生可能エネルギー法」が、そしてドイツやデンマークで固定価格買取制度導入を経て協同メカニズムが進む状況が、噛み砕いて語られる。そして第V部では、世界に広がる国内排出量取引制度を、2001年に始めたイギリス、2005年のEU、またドイツ・アメリカの諸州に徐々に広まりつつ、進化した様子がわかる。炭素税、環境税の遥か手前、道路特定財源と暫定税率の廃止が民主党のマニフェストに示された段階の日本では、まだ先のことにも見えようが、いつまでも取り残されているわけにはいかない。
 ドイツ政府がいう「良き温暖化対策は、良き経済政策でもある」とは、日本人の多くもすでに理解している。失われた10年とその後の閉塞期から我々が脱するためには、良き温暖化対策を中心に据えた新しい成熟社会のビジョンこそが不可欠である。日本の技術力と国民力が一層発揮されるためには、より高い目標があっていいだろう。第W部では、従来の温暖化対策から脱却、一気に飛躍しようと呼び掛ける。日本の気候保護法制定の骨子を示し、その効果を丁寧に説いている。
 時宜を得て、本書は、新政権による低炭素社会実現への門出を飾る一冊になった。著者の浅岡美恵さんたちは長年にわたり国際舞台でも国内でも温暖化対策に寸暇を惜しまず邁進してきた。その努力にようやく陽が差し始めた。新政権の誕生は本書の出版を祝っていると言うべきか。もちろん日本のチェンジはまだ途上、その着実な実行には我々市民も力が要る。国際水準になった温暖化対策を考えるために、この本を読むことがその力になる。
(宗田好史/京都府立大学人間環境学部准教授)

 2007年ノーベル平和賞がアル・ゴア前米副大統領とIPCC(気候変動に関する政府間パネル)に授与されたことや、昨年のリーマンショック以降も、再生可能エネルギー、未来型燃料、グリーンテクノロジーなどをキーワードとする企業の株式が活発に取引されていることに象徴されるように、地球温暖化対策は、近年、その重要度や注目度が増している。本書は、そのタイトル通り、世界の地球温暖化対策をコンパクトにまとめた一冊であり、幅広い読者層に対して「環境・自覚意識」を刺激する書物に仕上がっている。
 第一部では、欧米の脱温暖化への動きとして、ドイツ、イギリス、EU、アメリカの各国が辿ってきた対策立案までのプロセスが丁寧且つ正確に記述され、第二部・三部では、再生可能エネルギー法、RPS制度、EU指令などの温暖化対策に関連する制度、法律の内容・枠組みや各国の排出量取引制度について、図表を活用してわかりやすく解説されている。各国が抱える政治経済的な背景と共に、制度・法律のもたらす効果や今後の課題に関しても記述されており、通読すれば、世界各国の温暖化対策のレベルが概ね理解できると共に、低炭素化社会に向けたダイナミックな世界の挑戦を感じ取ることができる。最後の四部では、欧米各国と比較して日本の現状に危機感を感じ、日本でも環境保護の法律をつくろうと締めくくっている。
 読後の印象をいくつかあげると、第一に、170ページの本の厚みに比して内容は充実しており、豊富な図表や最新の数値も含め、熟読することにより諸外国の趨勢を体系的に理解することができると感じた。一方で、贅沢な注文と認めた上で書かせて頂くが、記述方法が若干単調で定型的なところがあり、工夫があればもっと多様な読者を引きつけることができたのではと感じた。欧州諸国の先進の環境対策と比較して、日本の政策・制度面での貧弱さ、出遅れを厳しく指摘している点は、確かに同意できる一面もあるが、90年代初頭に経済産業省が中心になって進めた太陽光発電補助制度などは海外で高く評価する人(例えば、ドイツのジャーナリスト:フランク・アルト氏)もおり、日本の最先端の省エネルギー技術をベースとして、官民が一体となった環境分野での世界への貢献を私は信じたい。
(大阪ガス株式会社都市圏住宅営業部/滝井 洋)

担当編集者より

 2009年、地球温暖化対策の後進国として悪評の高かったアメリカと日本で相次いで新政権が誕生し、その取組みへの期待感が高まる。先ごろ発表された鳩山政権の温室効果ガス削減目標(2020年に90年比−25%)について、早くも実現性を懐疑する声が挙がっているが、本書では日本の厳しい現実を冷静に分析し、取組みを着実に前進させるために、さらに踏み込んだ目標に向けた具体的方策についても紹介している。日本の温暖化対策は今が正念場。ここで足踏みしている猶予はないこと、そして前進させることは決して不可能ではないことを、本書は真摯に訴えかける。
(MY)