読者レビュー
民主党への政権交代は、建築・都市計画の分野でも大きな期待を持って歓迎されている。
これまでの都市計画、建築法制、住宅政策など、いわゆる私たちの暮らしの隅々まで血肉になってしまった中央集権システムを見直す絶好の機会であり、我が国を覆っている閉塞感を打ち破ることができるかどうか、歴史のターニングポイントである。
都市計画の先進地といわれている欧米に追随するのではなく、これまで度々してきたつまみ食いのようなその場しのぎの対応を乗り越えて、我が国の風土を冷静に分析し、海外の先端的な動きを踏まえながら、読み解くことができるのは著者の独壇場である。
この本は、これまで著者が機会ある毎に警鐘を鳴らしてきたことの要約でもある。
著者には、1968年法の時のつらい思いがあるらしい。結果として、建築基準法と都市計画法の有機的な連携が失敗に終わったという経験が本書の該当する文でも読み込めるのである。ちょっと読み過ぎかもしれないが、日ごろ、著者の謦咳に接している者としての感想である。
著者は、地域主権の主体は県や市町村にあるとするが、私は必ずしも諸手を挙げてその仮説に賛意を表すことができない。自治体職員や自治体組織はこれまでの中央集権的、機関委任事務的な行動パターンが抜け切れていない。是非、著者の期待に自治体職員を始めとする建築・まちづくりの専門家が応えてほしいと思う。
また、「まちづくり」と「都市計画」の二元的な概念操作が議論すべき課題を曖昧にして、日本的に対立を避けて対応を拡散させてきたと指摘している。市民も共感を持って加わることができる統合化に向けての緻密かつ実りある議論が必要であるとする。分かりやすい都市計画であり、建築行政、住宅政策が求められるのである。
私たちは目先の課題に対しても、次世代に向けても確実に転換の舵を切らなくてはならないだろう。本書はこうした都市計画の課題を議論をしていくための必読書になると思う。
(自治体職員/若林祥文)
複数の既往言説を「急いで編集し整理し直」したものであるにも関わらず、著者のこれまでの姿勢が一貫して現行制度の部分的改善ではなく抜本的に「世界標準に近い近代的な」制度を求めるものであるため、本書の主張は明快であり、制度が目指すべき姿の提案の一つとして大きな説得力を持っている。
個人的には第4章を特に興味深く読んだ。住宅政策への今後の期待は大きいが、一方で現在迷走著しい分野であるからだ。都市計画・まちづくりの観点から再構築を論じた本章の論点は今後さらに議論が必要であろう。
本書の提言は多岐に渡り、細部の疑問点をあげつらうのは無意味であるが、ここでは現実への反映を意図した場合の大きな課題を2点ほど挙げてみたい。
まず著者自身が述べているとおり「日常生活に不便はない」現状において、制度抜本改正に世論の追い風が吹いているとは言い難い点である。それなしに行政がリーダーシップを取り先手を打つことは容易ではない。問題顕在化の前にいかに根本的な議論の必要性を浸透させるのか、効果的な道筋は定かではない。次に、制度像が理念に即しているほど、ある種調整を積み重ねてきた現行制度との乖離も大きく、飛び越えるべき谷が広く深い点である。特に「地域主権」の実務的な担い手として基礎自治体の役割はいっそう重くならざるを得ないが、すでに疲弊し、なおのコスト削減の大きな流れの中で、いかに飛び越えられようか。また移行措置は避け得ないが、その設計をうまく行わねば、移行のはずが定常措置として定着し当初の意図を達成できないことは、過去の例にも枚挙に暇がない。著者自身がそもそもこのような問題意識を持ち可能なかぎり切り込んではいるが、まだ大きな課題として残っているように思う。
しかし、これはむしろ提案内容が具体的であるが故に越えるべき課題がより明確になったと評価すべきであろう。いかに谷に落ちずに課題を越えていくかは、実務・学術問わず都市計画に携わる者に課された大きな宿題である。その意味でも最近の議論の高まりに対して一石を投じている書籍である。
(東京工業大学大学院社会理工学研究科助教/中西正彦)
まちづくりのあり方が書かれていますが、これからの議論のベースになると思います。
特に(1)住宅行政の変革が必要です。住環境のあり方、流通システム、社会資産としてのコンセプトについて議論が必要です。(2)街区中心主義、柔軟な協議システムへと制度を変えるべきです。
(元・横浜市都市計画局長/木下眞男)
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