読者レビュー
衰退地区の再生を目指す、ドイツの「社会都市」のことは以前から気になっていた。だいぶ前に別件でベルリンに調査にいった折、こちらが聞いてもいないのに、省の広報部の担当者から「『社会都市』についても紹介させてください」と頼まれるほどの肝いりの政策だった。その熱の入れようは、ドイツに精通する著者をして「政策能力や実効力の高さに脱帽する」と言わしめるほど、構想力が高くかつ精緻な政策の仕組みに反映されている。
統合的アプローチによるコミュニティ・マネージメントを推進する「社会都市」政策は、ドイツ各都市で指定された衰退地区約5〜600ヶ所(平均人口8000人程度)を対象に、多様な主体を巻き込みながら総合的な改善を行政が支援する、10年超の長期的な取り組みである。地区をめぐる多主体の多様な事業や取り組みを連動させ、シナジー効果によって個々の事業だけでなく地区全体の改善効果を高めていくための様々な具体的な仕掛けが施されている。そして施策の開始から約10年が経った今、多くの地区で成果を上げつつある。
「社会都市」の理念、政策の枠組み、推進体制、個々の事業、そして評価に至るまで、ロジカルで合理的な思考に基づいた政策が、いかにもドイツらしい。Bプランや中心地の設定など、ドイツの機能的なまちづくりは多く紹介されてきたが、最も捉え方の難しいコミュニティの施策でもその「らしさ」が伺える。
本書自体にも「ドイツらしさ」が感じられる。コミュニティ政策の報告・研究にありがちな経験論やべき論は抑えられ、ドイツ都市問題機構の調査や筆者自身の実証研究を基にした、客観的な説明と論理的な主張が順序よく配置されているので、読みやすい。いわゆるコミュニティ礼賛派・ソーシャルキャピタル信者だけでなく、コミュニティに対し冷めた目を持ちつつも、これから人口減少と高齢化が進む日本の衰退地区に関心を寄せる人たちにこそ、本書を是非勧めたい。日本とドイツを対比して論ずる結章まで読めば、本書の内容と主張の重要性が必ず理解されるだろう。
(大阪市立大学大学院創造都市研究科准教授/瀬田史彦)
ドイツ、特に旧東ドイツ地域は、日本と比較しても急速に人口減少・少子高齢化が進行し、さらには移民・貧困問題を抱えている地域が少なくない。本書は、そのような問題地区を中心に520箇所で適用されているコミュニティマネジメントプログラムである「社会都市」プログラムに焦点を当てて、その内容と効果・課題を明らかにしている。
本書は三編から構成されている。第一篇には、「社会都市」プログラムに関する基礎的包括的な情報が書かれている。第二編には、その「社会都市」プログラムにおけるコミュニティマネジメントの推進体制や活動内容などが豊富な事例を交えつつ各論的に書かれている。そして第三篇には、ドルトムント市とハンブルク市の事例をもとに、これらの論点の実態が横断的に記述されている。さらに結章では、日本への適用可能性について具体的に示されている。
書かれている内容は網羅的かつ体系的で、コミュニティマネジメントを進めるにあたっての教科書といえるものになっている。課題の多くはわが国と共通するものであり、結章の提案も含めて、非常に興味深い内容になっている。
本書の要点を評者なりに一言でまとめると、「『つなげるまちづくり』の重要性」といえるだろう。人と人をつなげ、組織と組織をつなげ、事業と事業をつなげる。それによってシナジー効果が生まれ、さらに新たなステージへと展開していく。したがって、評価も「つながり」の評価になる。
その中心にいるのがコミュニティマネージャーである。ドイツでは(多くはないとはいうものの)そのための補助金が出されるが、日本には(中活の枠組みでのタウンマネージャーはあるが)そのような制度はない。もちろんその背景には、地区問題が外国のような治安問題にまでは発展しておらず「切羽詰り感」がないこともあるだろうが、その機能の重要性は明らかである。本書でもこれに関する提案がなされているが、この点のわが国なりの解決が急務だと感じた。
(東北大学大学院工学研究科准教授/姥浦道生)
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