読者レビュー
あら?これは飛べない鳥、プケコかな。美しい口絵の写真をパラパラめくると、クライストチャーチ市のトラビス湿地公園に遊ぶ鳥たちが目についた。キーウィとならんでニュージーランドの個性を示す鳥のいる風景である。
そういえば日本も昔は、百万都市、江戸には多様な生き物がいて、外国人を驚かせたっけ。今の日本からみれば、どこもかしこも自然豊かな美しい国、都市もガーデンシティとして、古くから緑豊かな町づくりのお手本であったニュージーランドである。しかし、林まゆみさんによると、その「デザインの哲学」が最近、変わったのだという。
それは、地球環境の危機、生物多様性の視点からくるものだ。単なる緑豊かな町づくりから、もともとの自然と動植物、先住民の文化を尊重したありかたが模索されているという。とにかく、ニュージーランドの都市から自然公園まで、たくさんの事例、具体的な人間との折合いのつけかたへの模索と成果がこの本に紹介されている。生物多様性条約COP10のおかげで、少しは生き物のことも考えようかという市民も日本で増えつつある今、では、何をすればいいのかで考え込んでいる人も多いはずだ。そうした人には格好の、夢と希望を与えてくれるものと思う。
筆者の人柄を反映したやさしい語り口調で書かれたこの本は、しかしながら町づくりや自然環境保全、ランドスケープに携わるプロや学生向けの本でもある。資料もしっかりしているし、たくさんの矛盾とその論点も紹介されている。たとえば、風力発電は環境にやさしいのか、負荷をかけるのか。「環境裁判所」の問題の紹介は、数年前に私自身が、国立国定公園地域における風力発電に関する検討会で、わずかな発電量と引き換えにかけがえのない美しい風景と自然を失うべきでないという論陣を張ったのを思い出した。
人口密度は桁が違うものの、土地と自然の利用の矛盾に「賢い折合いのつけかた」を模索する人には、格好の資料集ともなるだろう。
(京都大学大学院地球環境学堂/森本幸裕)
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