生物多様性をめざすまちづくり
ニュージーランドの環境緑化

林 まゆみ 著

四六判・192(カラー16)頁・定価 本体2000円+税
ISBN978-4-7615-2488-3
2010-07-30 初版発行

■■内容紹介■■ 
太平洋に浮かぶ島ニュージーランドは、地球の箱庭とよばれる大自然と貴重な原生生物の宝庫である。しかし入植者が持ち込んだ生物が島の生態系を破壊したため、活発な自然保護活動が展開されてきた。家庭のガーデニングから国立公園の管理まで、多様な生物と共生することで地域のアイデンティティを育む、環境づくりの最前線。


●林まゆみさん講演会「生物多様性とまちづくり」(2010.10.15)


読者レビュー
 あら?これは飛べない鳥、プケコかな。美しい口絵の写真をパラパラめくると、クライストチャーチ市のトラビス湿地公園に遊ぶ鳥たちが目についた。キーウィとならんでニュージーランドの個性を示す鳥のいる風景である。
 そういえば日本も昔は、百万都市、江戸には多様な生き物がいて、外国人を驚かせたっけ。今の日本からみれば、どこもかしこも自然豊かな美しい国、都市もガーデンシティとして、古くから緑豊かな町づくりのお手本であったニュージーランドである。しかし、林まゆみさんによると、その「デザインの哲学」が最近、変わったのだという。
 それは、地球環境の危機、生物多様性の視点からくるものだ。単なる緑豊かな町づくりから、もともとの自然と動植物、先住民の文化を尊重したありかたが模索されているという。とにかく、ニュージーランドの都市から自然公園まで、たくさんの事例、具体的な人間との折合いのつけかたへの模索と成果がこの本に紹介されている。生物多様性条約COP10のおかげで、少しは生き物のことも考えようかという市民も日本で増えつつある今、では、何をすればいいのかで考え込んでいる人も多いはずだ。そうした人には格好の、夢と希望を与えてくれるものと思う。
 筆者の人柄を反映したやさしい語り口調で書かれたこの本は、しかしながら町づくりや自然環境保全、ランドスケープに携わるプロや学生向けの本でもある。資料もしっかりしているし、たくさんの矛盾とその論点も紹介されている。たとえば、風力発電は環境にやさしいのか、負荷をかけるのか。「環境裁判所」の問題の紹介は、数年前に私自身が、国立国定公園地域における風力発電に関する検討会で、わずかな発電量と引き換えにかけがえのない美しい風景と自然を失うべきでないという論陣を張ったのを思い出した。
 人口密度は桁が違うものの、土地と自然の利用の矛盾に「賢い折合いのつけかた」を模索する人には、格好の資料集ともなるだろう。
(京都大学大学院地球環境学堂/森本幸裕)

担当編集者より

 ニュージーランドは、その大自然を体験できるエコツーリーズムで日本人にも人気の高い観光地だ。日本でもエコツーリーズムに取り組む地域が増えているが、観光促進と環境保全の両立は常に悩まされる問題だ。
 ニュージーランドでは、自然や生物の保護が国の法制度できちんと定められ、市町村の施策や市民の暮らしにまでその「哲学」が浸透していることが、本書を読めばよくわかる。人間を多様な生物の一員として捉え、入植者も原住民の区別もなく、皆が共生できる環境を目指して取り組まれてきた活動が、環境立国、観光立国に結びつき、この国の魅力を高めている。
 ニュージーランドに移住したイギリス人と同様、自然豊かな環境で多様な生き物と暮らし、自然を愛でる文化を育んできた日本人。その日本人が置き去りにしてきたもの、そしてそれを現代に取り戻すことの大切さを教えてくれる一冊。
(MH)