クリエイティブ・フィンランド
建築・都市・プロダクトのデザイン

大久保 慈 著

A5判・176(カラー16)頁・定価 本体2000円+税
ISBN978-4-7615-2495-1
2010-11-10 初版発行

■■内容紹介■■ 
世界屈指のクリエイティブ立国として知られるフィンランド。近代以降、優れた建築家、デザイナー、メーカー企業を多数生み出してきた。自然を愛する純真さと合理主義の聡明さを備えた国民性、デザインマインドを育む豊かなライフスタイル。フィンランドデザインが生まれる背景とその魅力を、現地在住の建築家が解き明かす。



読者レビュー
 本書において特筆すべきことを3点記すことにする。
 まず本書の骨格は、フィンランド都市計画の歴史から現在について、法規にまで言及した精緻でかつ読みやすい研究書であるということ。たとえば東京、関東大震災後につくられた都市計画の財産を、各時代の都合によって反古にし、食いつぶし、あげくのはてに「東京に都市計画はない」といった空気の中にいるわれわれ。そもそも八百万の神(妖精)を奉り、自然崇拝を基調としてきた同じような民族、人口500万人あまりの小さな国フィンランドの丁寧な都市計画から、多くのことを学ばねばならない。
 次に本書は、われわれ日本人が、アルバ・アールト一人に背負わせてきたフィンランドもしくはスカンジナビアに至るまでの20世紀建築のイメージを、やわらかく解きほぐし、日本では無名の多くの建築家を登場させることによって、その周辺の空白を上手に埋めている。それを可能にしているのは何か?それはフィンランドに住み、学者やジャーナリストの目線ではない、建築実務者としての琴線のようなものにすでに著者が触れているからだと思われる。そう、いわば本書は「アールトのいない風景」についての著書とも言いかえることができるのだ。
 最後に、著者自身がこつこつと撮りためてきた150枚あまりの秀逸な写真が使用されていること。20代の旅でフィンランドを訪れ、著者いわく「他にやることがなくて、ついでにアールト建築を巡ることにしたのだ」と、なんとも飄々としたそのクールな態度にだまされてはいけない。その後も「スカイダイビングや散歩にあけくれる」ふりをしながらも、著者の目はつねに生活者としてフィンランドの奥深くに入り込み、街の姿や人々の機微、そして豊かすぎるほどの自然と対峙することによって、本書は生まれてきたのである。つまりそれは、本書が思いつきの企画ではなく、周到に用意された思考の蓄積であることを物語っているのだ。
(建築家/大島健二)

担当編集者より

フィンランドのデザインや教育の素晴らしさは日本でもよく知られています。しかし、なぜ魅力的なものづくりができるのか、いかに優れた制度が生まれるのか、その背景にはフィンランド人の精神性が関わっているのではないか、といった疑問を解き明かすため、この本を企画しました。著者の大久保さんは、この10年間、ヘルシンキで暮らし、大学を卒業し、建築家として仕事をされています。その文章からは、生活者として普段の街や人々の様子を活写しながら、建築や都市に真摯に向き合う専門家としての眼差しが混ざりあい、街の深みや息づかいがリアルに伝わってきます。フィンランドという国を多面的に紹介し、その魅力の源を発見させてくれる1冊です。
(MH)