町家棟梁
大工の決まりごとを伝えたいんや

荒木正亘・矢ヶ崎善太郎 著

四六判・200頁・定価 本体1600円+税
ISBN978-4-7615-1288-0
2011-08-01

■■内容紹介■■ 
京都の町家は、市井の人びとの住まいとして脈々と受け継がれてきた。それらを改修してきたのは、神社仏閣・数寄屋などもこなすほど高い技術をもった大工棟梁であった。六十年以上にわたって町家にかかわってきた大工棟梁が、何を見て、どう考え、建物と格闘してきたのか。町家の再生にかけた人生を次代の若手に向けて語る。



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読者レビュー
 6〜7年前になるだろうか。町家の住み手と作り手が集まる「第1回全国町家再生交流会」が京都で開催され、参加した時のことだが、休憩時間に若い職人衆を前に、「構造柱は背割り入れたらあかん。永くもたへん」と柔らかな面向きと口調で話された小柄な年配の方が印象深い。それが8月に出版された「町家棟梁」の著者である荒木棟梁との初めての出逢いと教示であった。
 近年になって、町家や古民家あるいは伝統的町並みが脚光を浴びはじめ、伝統的な暮らしが見直されてきた。しかしながら、多くの町家や古民家が姿を消し、伝統的町並みも失われつつある。失われないまでも不適切な改修で本来の建物のもつ構造や機能が損なわれているのが現状である。今、作り手に何が求められているかが課題である。
 同書は荒木棟梁が大工として60余年に渡る庶民の生活文化として、脈々と受け継がれてきた京町家の再生にかけた人生を語り口調で赤裸に綴られている。長年地道に培われた経験で大工の決まりごととしての多くの伝統の技が図解をまじえ紹介されている。そして、狭い敷地ゆえの建て方を考慮した京町家ならではの構造の仕組みが解き明かされている。さらには、Eディフェンスで町家の実大振動実験を行い、耐震性の立証までされた。つまり、仕口や継手一つにしても大工の技が全てにおいて理由があり、それが長年培ってきた大工の知恵と工夫による作法と言える。一方では、現在では薄れがちな大工職人と施主や地域のつながりについては日頃のメンテナンスや四季折々の慣習の手伝いであり、地域の祭事での役割ごとを通じて信頼関係が構築され、大工職人が社会的責任を負っていたことも忘れてはならない。最後には棟梁の願いとして棟梁塾という若手の育成の場をつくられ、大工の決まりごととしての技の継承も着実に進められている。全国で伝統と奮闘されている作り手やこれから大工職人をめざす若者にとって最も相応しい教科書と言える。
 棟梁とは、2年前に全国の作り手で組織した「作事組全国協議会」で御一緒し、作り手の課題克服のため、町家再生の手ほどきをして頂いている。ついこの間も「町家は固めたらいかん」と教示して頂いた。全国作り手の町家棟梁と言っても過言ではない。
(NPO法人八女町並みデザイン研究会理事長/中島孝行)

担当編集者より

 
 京都工芸繊維大学の矢ヶ崎先生とともに、聞き書きの作業を進めていたのですが、しばしば、こちらの質問を予想していたかのように「こういうもの書いたんやけど」と本書のもととなる資料をたくさん頂戴しました。それらは、すでにこの本の仕上がりを予想されていたかのようなものばかりでした。あふれんばかりの言葉の数々に、一冊には到底こめられない奥行きを感じました。本書は荒木棟梁の伝えたい事柄のうちのごく一部を、読みやすい形に仕上げたものです。町家の改修をしながら、多くのことを考えてこられた荒木さんの片鱗に触れていただければと思います。
(C)