京の左官親方が語る
楽しき土壁


佐藤嘉一郎・矢ヶ崎善太郎 著

四六判・224頁・定価 本体1800円+税
ISBN978-4-7615-1304-7
2012-03-15

■■内容紹介■■ 
快適で、なごみの空間をつくりだすとともに、健康によく、地球にもやさしい土壁。そこにはなんともいえない不思議な魅力がある。茶室・数寄屋建築の壁を多く手掛けた著者が、土のはなし、左官の仕事、今後の左官業界などについて思いを馳せながら、仁和寺、玉林院などの茶室をめぐり歩き、土壁のもつ意匠・魅力について語る。



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読者レビュー
京都が誇る左官職人そして親方の佐藤嘉一郎さん(1921年生まれ)の、前著『土壁・左官の仕事と技術』から10年を経て、御年90才を迎えての左官一辺倒の人生の「かたり」である。読み進めていくと息長く流れる言葉に引き込まれる。「上手に使えば、できたときのままより年数が経ったほうが、味が出てよくなるもんです」と佐藤さんが言うように、土壁は時を経て熟成して、本来の表情を見せることを大事に目指してきたことがよく分かる。
 前著で少し紹介された京都のお寺の草庵茶室の土壁も、本書では佐藤さんの目でたっぷりと語られる。茶室の土壁のどこに工夫があるのか、職人の技術はどこを見たら分かるのか、200年前の土壁が今素晴らしい姿を見せているのはなぜか。佐藤さんは、土や下地だけなく見えない大工仕事まで見通して解説してくれる。古い土壁でも、すぐに味を出そうとしたものには、静かに厳しい言葉が並ぶから信頼して読める。
 法隆寺の築地塀は、1000年以上の時を経て、断面が波打つように削れている。ある有名な左官職人が、これは版築で土を突き固めた一層一層が、上側は強く突き固められているから削れないけど、底側は自然に突き固めが弱くなるから削れてくるので、一層ごとに波ができると教えてくれたとき、土壁と時間の流れを感じたことがある。佐藤さんには、様々な壁にそうした時間を感じられるように思われる。
 近頃、現代建築より歴史的な町並みや社寺を多く見るようになった。そのたびに昔の建物と新しい建物の古び方は何故こんなに違うのか、そうでないにしても、新しい建物は少し古びると昔の建物になかなか勝てないと感じるようになった。左官仕事は、建物の見える部分の実に7割の面積を占めているというのだから、漆喰や土壁の印象は、この実感にも大きな影響を与えているに違いない。本書を読んで、先達の仕事の良し悪しを見定めている左官職人は、100年単位で自らの仕事を意識しているのを知れば、そうした実感も当然かと思えた。
 佐藤さんは職人が学ぶために、京都に左官組合の学校を創設した。15年前、その学校の講師をすることになり、校長だった佐藤さんに面接を受けたことがある。左官について浪々と語る佐藤さんのその言葉が、そのままの魅力で本書にまとめられたことは、一読者としても大きな喜びである。聞き手や口述筆記、編集にも相当の力を費やされたことと思い感謝したい。
(奈良女子大学生活環境学部准教授/山本直彦)

担当編集者より

茶室などへの取材に同行をさせていただきましたが、土壁のディテールを語る佐藤嘉一郎さんの言葉はとどまるところを知りません。茶室の壁を見るだけでも1日が過ごせそうな勢いです。「あそこの壁はな、もうすこし赤っぽかった」と今まで見てこられた事例を引き合いに、土壁談義に花が咲きます。「私やったらこう塗るなぁ」。その場にいてとても刺激を受けたことが思い起こされます。御年91歳。まだまだ、やる気に満ち溢れています。
(C)