KOHEI NAWA | SANDWICH
CREATIVE PLATFORM FOR CONTEMPORARY ART

名和晃平 + SANDWICH 著

A5判・208頁(オールカラー)・定価 本体2800円+税
ISBN978-4-7615-2566-8
2014-01-20

■■内容紹介■■ 
彫刻家・名和晃平を中心に、アーティスト、建築家、デザイナーなど多彩な分野のクリエイターが集まりプロジェクトを展開するSANDWICH。サンドイッチ工場跡をリノベーションしたスタジオ創設、オープンな組織運営、感覚を揺さぶる造形思考、領域を横断する制作手法まで、アート・建築・デザインの常識を超越する活動の全貌!



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評 : 椹木野衣 (美術批評家/多摩美術大学教授)

 書物というよりプロダクト。本書を手に取った第一印象はそれだ。もっとも、本もプロダクトの一種にはちがいなかろう。けれども、誰も本のことをプロダクトと呼びはしない。でも、本書を通じて僕は、本もまちがいなくプロダクトなのだと気がついた。実に新鮮だった。
 表紙のエンボス加工もよくあるたぐいのものではない。まるで名和晃平の作品の一部のようだ。売り文句が載る帯とも微妙に質感が違っている。もしや、と思い、くるみを剥がすと案の定。紙の裏まで金属質に仕上げられ、鈍く光る銀の帯と違う角度できれいに反り返る。本体とくるみと帯からなるオブジェみたいだ。頁をめくる指先に伝わる紙の触感も快く、内容はもちろんだが、たんに読む(見る)だけでなく体感させる本──つまりは良質の作品になっている。
 忘れてならないのは、本書がアーティスト=名和晃平だけでなく、彼が力と頼むスタジオ、SANDWICHに同等の光を当てていることだろう。両者は、アーティストと、それをサポートする工房との通常の関係とは違っている。本書を見るとよくわかるのだが、名和にとってSANDWICHは、着想や制作、新たな構想の開拓や未知の実験を試すために不可分、かつ一体の「場」なのだ。この意味では名和とSANDWICHは同じ創造性の表裏であり、もっと言えば別称と呼んでもいいくらいだ。
 だからこそ、プロダクトと書物の境界を(超えるのではなく)繋ぐこのような本ができるのだろう。同時にそのことは本と彫刻、建築と服飾、デザインと和食、絵画と音楽が、すべて「プロダクト」として連携・統合されることを意味する。ただし、ここでのプロダクトはアートの下位分野を意味しない。
 前に一度、名和の案内でSANDWICHを訪ねたことがある。けっして広いとは言えない空間は合理的にデザインされ、企業の工場にも負けない生産性を備え、広い分野をカバーして着々と稼動していた。本だけではないのだ。そこにはもう、プロダクトとアートを分ける壁は存在していない。
 20世紀のアートにとって、高度消費社会の生み出すイメージをどうやって取り込むかは大きな問題だった。けれども、名和晃平+SANDWICHは、高度消費社会が必要とするマテリアルやコンテンツそのものを、社会に先駆けて生産する可能性を秘めている。

評 : 長谷川祐子 (東京都現代美術館チーフキュレーター)

 本書は、現在進行形、生成中の一つのオーガニックな組織をそのまま切り取ってもってきた感じのいささかラフな本である。
 いま時代をリードしている旬の作家である名和晃平と彼が中心となって組織しているプロダクト集団SANDWICHの活動について、文字通り走りながら記述した感じの新鮮さが溢れている。
 その新鮮さは、既存の方法論にとらわれない、決定や組織づくり、制作のプロセスにある。つまりよく言えば試行錯誤の連続、悪く言えば行き当たりばったりにすべてはなるようになってきたというプロセスが、名和のコメントの中に一貫して感じられる。
 サンドイッチ工場を見つけてそのたたずまいやスケールが気に入り、若手の建築家たちにアドバイスを求めながら、プログラムと建築空間のリノベーションプランを同時並行で進めていった。
 「SANDWICHの設備やレイアウトはつくるものに合わせて、使いながら内側からできあがっていった。良い創作環境とは、頭に浮かんだイメージやコンセプトが目の前で次々具現化し、それが刺激的で面白くて止まらなくなるような「場」のことだ。」(名和)
 つまり最初からSANDWICHは事業内容を定めないまま始まり、それが拡張するにまかせて、生き物が成長するように改良が繰り返されてきた、苗床というか、多様な出来事の発生を許容するゆるやかなプログラムをもったプラットフォームのようなものである。
 スタッフが徹夜仕事で寝泊りする必要から買ったベッドがいつのまにかレジデンスに発展していくなど、およそその過程は「計画」「実施」とはほど遠い。
 プロジェクトによっては50人からの人間が働いているファクトリーをどう統合するのか、名和のデイレクションは一つの統合を牽引している。が、実際に組織を統合しているのはアートという実体のもつ以下のような性質でもある。
 「そもそもアートは、社会という与えられた枠組みのなかで発想したり、つくるものではなく、枠組みの内側も外側も許可なく出入りができて、輪郭を溶かしたり、崩すことが可能なメディアである。その自由さへの憧れと中毒性が、アーテイストを動かしている。」(名和)
 プロダクツという名前のもとにアートからデザイン、建築まで広範に活動するSANDWICH。
 「イメージと物質性が共振するような表現を目指すには、最初から最後まで目や手の感覚で確認しなければ良い作品にはならない。」(名和)
 量産ベースのプロダクトや内装で覆われた商業スペースに麻痺してしまった感覚、それを逆手にとり、ズレや麻痺を批評的に扱うことで表現にしうる―その明快なコメントは、いま「生産」と「労働」について再考する時代に多くの示唆を与えてくれる。

担当編集者より

 アートや建築、デザインといった業界を軽々と越境して行く名和晃平さんとSANDWICHの躍動感をそのまま本にできたらと制作した1冊。この本ではSANDWICHの特徴を11のキーワードで紹介している。
 たとえばコラボレーション。さまざまなジャンルのクリエイターから声がかかりプロジェクトが始まる。つくりかけの彫刻、建築の模型、素材のサンプルなどが至る所に並ぶスタジオで試行錯誤を繰り返す。そんな日々の創作現場の様子が生々しく綴られる。異業種とのコラボレーションは刺激的だが苦労も多いはず。だがそれも、SANDWICHのメンバーは視差として貪欲に吸収していく。
 作品づくりについて、「完成形を提示するのではなく、余白を残して、観客の中で作品が成長していくのが理想的だ」と語る名和さん。それは、SANDWICHという組織にも当てはまる。捉えどころがなく未完成だからこそ、多くの人が可能性を感じて一緒に仕事をしたくなる。ぜひSANDWICHを訪ねてほしい、独特のスピードで流れる時間、未完のまま更新し続ける空間、大勢の仲間が創造を営む清々しい現場感を確かめに。
(宮本)