建築を、ひらく


オンデザイン 著

A5判・192頁・定価 本体2300円+税
ISBN978-4-7615-2574-3
2014-06-15

■■内容紹介■■ 
対話で築きあげる設計手法で仕事の領域を広げるオンデザイン。ヨコハマアパートメントから地方のまちづくりまで、様々な展開をみせるプロジェクトや、パートナー制による設計体制、模型等のコミュニケーションツールを紹介しつつ、建築家だからこそつくることができる「パブリック」の新しいかたちを探る。はじめての単行本。



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評 : 南後由和 (社会学者・明治大学専任講師)

 オンデザインは、プロジェクトごとに、代表の西田司とスタッフがパートナー制をとることを特徴とする建築設計事務所だ。その事務所の運営スタイルが、初の単著である本書にも反映されており、西田以外に10人を超えるスタッフが執筆に参加している。建築家個人のなかに閉じられた知ではなく、西田とスタッフの間、さらにはオンデザインとクライアントの間でインタラクティブに生成される「関係知」が収録されている。
 「対話が重要である」というフレーズだけであれば、よく耳にする紋切り型の物言いにすぎないが、本書にはオープンでフラットな対話型手法による、オンデザイン独自の具体的なツールが数多く披露されている。たとえば、点景や素材をつくり込んだ大きなスケールの模型、プレゼンテーションブック、コミュニケーションブック、竣工アーカイブ、竣工後アンケート。これらは、専門家にしかわからないツールではなく、専門家と素人が単なる情報の共有を超えて、リアリティを共有し、共感を生むツールとしてある。そこには、「対話」のプロセスも履歴として可視化されている。これらは建築と社会について研究している私のような社会学者にとっても貴重な研究材料となりうるものだ。
 オープンでフラットな手法の対象は、スタッフやクライアントとの人間関係だけにとどまらない。オンデザインは、「建てる」ことにとどまらず、運営やまちづくりから集合住宅や個人住宅に至るまでをフラットに捉え、建築的思考の展開可能性を果敢に追求している。「設計中も竣工後もフラットに考える『建築のライフサイクル設計』」(p99)も、フラットな手法のひとつと言えよう。

 本書の目次には、『建築を、ひらく』というタイトルがそうであるように、「人を巻き込む」「風景を育む」「垂直にあつまる」などの動詞が並んでいる。オンデザインは、建築を動詞にまで還元してから、組み立てようとする。「モノ」のデザインだけではなく、「コト」のデザインをしていると言い換えてもよい。なかでも興味深いのが、設計対象の「読み替え」によって、設計対象のスケールを拡張し、建築の新たなフィールドを開拓している点だ。たとえば、オンデザインは、保育所を「人を育む場」として、幼稚園を「まちの学校」として、観光地づくりを「関係値づくり」と読み替える。そのことにより、建物より広範なスケールを射程に入れ、新たな設計のフィールドを開拓し、「建物に関わる人の分母を圧倒的に増やすことができる」(p102)というわけだ。こうして共創されるパブリックは、「僕たち私たちのもの」(p81)という当事者意識を育む。抽象的な理念を振りかざし、自らの実感やリアリティが希薄なパブリック意識にもとづく建築を設計していたひと昔前の建築家像はすっかり塗り替えられている。
 また、「建築を、ひらく」という発想は、「建築と社会をつなぐ」という発想とは似て非なるものである。なぜなら、「建築と」は、建築が自明の領域としてあり、それをいかに社会とつなぐかという考え方を前提にしている。それに対して、「建築を」は、建築という領域の輪郭を自明視することなく拡張していく考え方、そもそも建築と社会がバラバラに存在するのではなく、建築は社会を含み込んだものとしてあるという考え方と結びついているからだ。オンデザインには、「と」から「を」への発想の転換がある。
 ここまで、オンデザインのオープンでフラットな手法に着目してきたが、必ずしもそれを建築その他すべてがフラットであるべきだという主張と見なさない方がよい。本書で、建築は「アンカー」であると指摘されている(オンデザインの事務所では、西田がアンカーである)ように、やはり建築が核となることで、人を巻き込み、拠点をつくり、風景を育み、持続性を持たせることができる。「複数の関係性を見える化し、場所を通じて結晶化してい」くこと、「おぼろげだったものに新しい関係性や構造を与えて定着させていくこと」(p119)。これらは建築の固有性と可能性であり、本書には、そのような建築だからこその固有性と可能性が満ちている。

担当編集者より

本をつくる相談をはじめてから、2年以上になる。 設計だけではない活動をされていることに興味を持ったので、作品集ではない本にしたかった。
まずは3回連続レクチャーを開催した。毎回ゲストを招いて、オンデザインってどんな事務所なのか、なぜ注目されるのか、何がおもしろいのか? を明らかにしようとした。
オンデザインは、代表の西田さんの(おそらく直感的な)マネジメントのもと、所員(メンバー)それぞれの個性が発揮されている。プロジェクトも多様だし、施主によってできあがるものも違ってくるから、「これがオンデザインです」というものがはっきりしない。そこが面白さでもあるのだが、なかなかまとまりにくく、10回以上にわたって原稿を少しずつ仕上げていただいた。
彼らが建築において取り組んでいるように、本づくりにおいても人を巻き込んで、対話を重ねることを大事にされていたのが印象的だ。そうやって少しずつ仕上げられた入魂の1冊、ぜひ読んでみてください。
(中木)