評 : 大島 滋 (潟~サワホーム Aプロジェクト室室長)
⇒2015.6.20、代官山蔦屋書店にて大島氏×高橋氏×木下氏トーク開催!
素人にとって、建築家と口を利くのは難しい
この本は、これから家を建てようとする人にとって役立つのはもちろん、これから独立して設計事務所を立ち上げようとする建築家にとっても役立つ本だ。なぜなら、今の時代、設計者にとってただ格好良いプランが描ければ良い時代ではない。少なく見積もっても1年以上の時間がかかる家づくりには、土地探しやら、資金計画やら、相続の問題やら様々な問題が付いて廻る。それぞれの場面で、建て主と建築家のコミュニケーションには緊張感が生じているはずだ。
ところが、はっきり言って素人にとって建築家と口を利くのは難しい。みな頭が良いので生半可な質問では本音は見抜けない。確かに建築家との家作りは刺激があって、工務店やハウスメーカーと違い、顧客が描いているイメージをはるかに超えたプランが出てきたときには実に楽しく夢が膨らむものだ。ただし、それが実現可能なのか、行き過ぎたプランではないのか、その判断を下すのは難しい。話が通じて、できるだけ相性のいい建築家を見つけることは意外と大変なのだ。
そこで“建築家プロデュース”を称して、建て主と建築家をマッチングする会社が続々できている。家を建てようとする人は、そうした情報をネットで容易に入手できるので、家電や車と同じように、不動産や設計者も比較検討することが可能だ。
ただ、問題は何が自分にとって必要な情報か、土地はどう選び、設計を誰に頼めば良いか、家電や車と違って容易に取替えがきかない代物に、決定を下す判断がまた難しい。
この本の著者、高橋さんはその点をサポートする不動産会社の代表だ。大学院まで建築を学び、設計事務所に勤めること7年、その後不動産業に転じて9年、4年前に椛n造系不動産を立ち上げた。建築と不動産、二つの業界を知り尽くした彼は、建築家の弱点を補い、むしろそのセンスを最大限に活かしながら、建て主のライフプランに適した土地探し、金銭面のアドバイスをする。人間の住む場所がいかに大切か、それを建築家がいかにクリエイティブに実現できるかを唱え、「どこに住むか?」「どのように住むか」を建て主、そして建築家と一緒に考えている。
まさにこの本は、建築家がこれからの住まい、建築家の職能を考える上でバイブルになるだろう。
担当編集者より
街をつくっているのは、建築というより不動産、そう思います。我が家の近所でも空き家が目立ち、店がぽつぽつ閉じ始めました。そうやって人が減る時代に、不動産会社や建築家がどう振る舞うのかはとても気になります。建築の魅力を知り、ビジネスにつなげる高橋さんのようなパイオニアに期待しながら、「建築と不動産のあいだ」でこれから何が起こるのか、一層注目していきます。
(井口)
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