評 : 田村 誠邦 (明治大学理工学部特任教授)
リテラシー′上のために
住まいは生活の基盤であると同時に社会的な存在であり、社会や経済と密接な関係を持っている。とりわけ、住まいを手に入れたいと思っている人にとっては、住宅ローンや住まいを取り巻く税制は、きわめて身近な問題である。
その一方で、住まいの設計や施工に携わる建築系の人間の多くは、この身近であるはずの住まいの金融や税制について、十分に理解しているとは言い難い。というのは、建築系の大学等のカリキュラムには、住まいの金融や税制について教える科目もプログラムもないからである。そして、設計や施工などの実務に携わってからも、住まいの金融や税制について、基礎からしっかりと学ぶ機会はほとんどない。このため、建築系の人間の大半は、住まいを手に入れたいと思っているクライアントから住宅ローンや税金に関する質問をされても、どう答えていいかわからず困ってしまうのである。
本書は、こうした建築系の人間が、住まいの金融や税金について基礎から分かりやすく学べる貴重な機会を提供してくれる。とはいえ、本書は、住宅ローンの有利な借り方とか、節税方法などを説く、いわゆるハウツー本ではない。「建築女子が聞く」という甘いフレーズに騙されてはいけない。私たちの社会の重要な枠組みである「金融」や「税」のそもそもから説き起こし、それらが「住まい」とどう係っているのかという仕組みを明らかにし、さらに、これからの「住まいと住環境」や私たちの「社会」をどうすればいいかを考えるという結構、硬派の本なのである。だからこそ、「住まいと金融」、「住まいと税制」について根本から学びたいと思っている方には、ぜひお薦めしたい本である。本書を読めば、「金融」や「税制」という身近にありながら、これまで難しいと敬遠していた分野に関する「リテラシー」が格段に向上すること請け合いであるからだ。
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