読者レビュー
オバマ大統領の登場で世界が盛り上がった頃、にわかに知名度を増したまちが本書のタイトルでもある食のまちづくりを進める小浜市です。
本書は、オバマフィーバーの表層的な部分ではなく、根底に流れる市民のパワーを市民に寄り添った視点で捉えた良書だと思います。フィーバーを批判する声を私も耳にしましたが、本書ではこう述べられています。「小さな成功を積み重ねることを通して、市民一人一人が生きる喜びを見い出し、地域への誇りを増幅させました。……市民の高揚は一過性のものではない……小浜市民は次の追い風に乗るだろう。外からの風が吹かなければ自ら風を起こすだろう」。小浜市が単に盛り上がっただけではないことを言い当てています。このまちは今年、NHK大河ドラマの舞台の一部として、次の追い風も利用しようとしています。
人口約3万人のまちで起こったこの10年の動きを、著者は長年に渡る取材で市民の中に入り込み、つぶさに丁寧に描き出しています。小学校での地場産給食の取組みが大きなうねりとなり広がっていったこと、また、全世代を巻き込んだ食育、すなわち生涯食育が、今なお拡がりをみせつつ実践されていること、環境保全活動をも含め、全国に類のない市民活動がこの小さなまちで起こっていることなど、市民の活動が重層的に広がっていく様子が適確に、また主体的に関わった多くの市民の本音ももらさず、やさしく、思いやりのある文体で紹介されています。食のまちづくりの前線にいた私ですら、いつの間にか本書に引き込まれてしまいました。
日本経済が右肩上がりに成長するステージから脱し、多くのまちが今後の方向性に悩むなか、地域の食や食文化を活かしたまちづくりの可能性を本書は示しています。まちづくりの関係者のみならず、本書をきっかけとして、多くの方々に有益な情報が提供され、市民参画のまちづくりが、日本全体で大きなうねりとなって生じることを期待しています。
(元小浜市食のまちづくり課長(現農林水産省職員)/高島 賢)
勇気をもらえる一冊だ。
「このまちには何もない」と言う市民に「あるもの探しをしよう」と2000年に始まったのが小浜市の食のまちづくりである。これは、小浜市の持つ「御食国」の歴史や今も受け継がれる豊かな自然、固有の食文化に着目し、食を中核としたまちづくりであるが、当時の日本が今ほど「食」というものの重要性や可能性を実感していないなか、相当な勇気が必要だったのではないだろうか。
そう思う私自身も2003年、社会人採用で民間から小浜市の食育専門職員に採用され、かなりの勇気を持って市職員になった。食のまちづくりに魅せられ、夢中で食育の仕事をしてきたこの8年の間に「生涯食育」「義務食育」という言葉も生まれ、小浜ならではの特色ある食育事業が定着している。就学前の子ども全員が参加する「キッズ・キッチン」では、幼児が手のひらの上で上手に豆腐も切るし、堂々と鮮魚を捌く。自分の持つ力に確信を持った子どもは、この先の人生で困難に出会ったとしても「やってみよう」「きっとできる」と逃げることなく越えていくに違いない。全小中学校で地場産学校給食が行われているが、毎日の学校給食が、誰らの手によって、どれほどの時間をかけて作られたものかを知った子どもは、自分が人に愛されていることを実感する。本書で紹介されている小浜の食育事業には、現代の教育、子育てにとって大事なことやヒントがいっぱい詰まっている。
また、食のまちづくりでは、ふつうの市民がどんどん主役になっていった。人はどのようなきっかけで、踏み出す勇気を持つことができるのか。そして、まちづくり活動により人や地域とつながることで、どのように変わり人生を豊かにしていくのか。それらが表情豊かな写真とともにわかりやすく描かれている。
時代に流されることなく、他所を羨むことなく、自分たちの地域を見つめなおすことから始めた小浜市の食のまちづくり。特に若い世代の方々に読んでいただきたい。世の中がどうであっても、自分がいくつであっても、「輝くチャンス」が身近なところにあることに気づく。
まちづくりの本なのに100人近い登場人物の素敵な人生に触れたようで、さわやかな涙が出る場面が多いのは、筆者の温かみと深みのある人柄のせいかもしれない。
(小浜市食育政策専門員/中田典子)
担当編集者より
「食」は生きることの基本、すべての人の暮らしと切り離せないテーマです。実際、この小浜の食のまちづくりには、老若男女あらゆる世代の人々が参加しています。食はそれほど身近で普遍的で、人々を結びつける素材として最適なのです。
小浜の人々は自分たちができることから行動を起こします。はじめは小さく地味に見える活動も、仲間を増やして個々の活動が連鎖して、まちを変えていく大きな力になっていきます。人々が生き生きと輝くことが、まちを輝かせる。それを見事に実現してる小浜のまちづくりを、著者の佐藤さんが長年の取材を通して丁寧に描きだしています。
本書は、当社で出してきた建築・まちづくり分野から一歩踏み出した一冊です。今後も、食や農などこれまで工学分野では扱われてこなかったテーマも横断的に取り入れ、多様な切り口から地域の可能性を考えられる本を出していきます。是非ご一読いただき、ご支援をよろしくお願いいたします。
(MH) |