中心市街地活性化のツボ
今、私たちができること

長坂泰之 著

四六判・232頁・定価 本体2000円+税
ISBN978-4-7615-2510-1
2011-04-01 初版発行

■■内容紹介■■ 
中心市街地の衰退が止まらない。緩すぎる郊外規制等の外部要因はすぐには変えられないが、我々が今できることは何なのか?郊外拡散を規制し中心市街地を一体的に運営する「タウンマネジメント」の必要性と日本各地の先進事例に見る活性化の「七つのツボ」を提示、都市計画・商業双方の視点に立つ論客による実践書の決定版!




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読者レビュー
 まずは、著者である長坂泰之氏について触れたい。彼の肩書きは、中小企業機構基盤整備機構の課長。また、中小企業診断士でもある。1985年に前身である中小企業事業団入社以来、この道一筋なのであるが、こういう業界にありがちな頭でっかちの理屈屋とは真逆の人物なのである。40代後半、身長180cmを超える大男で、顎に白髭をたくわえた、一見無骨なヤクザか俳優のような風貌。そして、飲むのが大好き。決してアル中ということではなく、その場の雰囲気が好きということである。飲みながら話すことで、本音が聞き出せるということもある。私も彼と出逢って、この2年間でどれだけ杯を交わしたか、数え切れないほどだ。
 まちづくりに関わる人には、酒好きが非常に多い。彼がその酒好きのまちづくり屋から、本音、愚痴の全てを聞き出し、まとめたのが本書である。
 私にとって羨ましい限りだが、彼は仕事上、さまざまなまちを訪れる。また、訪れる回数はひとつのまちにつき、1度や2度ではない。
 我々が視察に訪れる場合、せいぜい年間1回が限度、しかも1度訪れたまちを2度、3度訪問することはない。果たしてそれで、そのまちの本質が見えるだろうか。
 私がまちづくりに携わったこの2年間で痛感していることは、まちを訪れるだけでなく、そのまちのキーマンに会うことの重要性だ。
 単に活性化に成功したまちを訪れ、「人がたくさん歩いているなぁ」「すごいなぁ」と感想を持ったところで、自分のまちづくりに取り入れられるだろうか。
 例えば、長浜の「黒壁」。通行量4人と1匹だった時代から、現在は約200万人の観光客が訪れるまちになったわけだが、視察に訪れた人の大半がその賑わいだけに目を向け、ただの観光で終わってしまっていることだろう。
 「取り立てて目立った地域資源のなかった長浜」「来訪者のためのまちとしては完成しつつあるが、生活者のためのまちとしてこれからどうするか」(本書第2部ツボ3より)。「長浜のまちづくり唯一の欠点は、人づくりをしてこなかったこと」(本書第2部ツボ4より)。長浜のキーマン吉井さんの本音を引き出すことができたからこその、この文である。
 これを見た読者は以下の2点を学ぶ。
  1.やり方次第で、どこのまちでも活性化は可能だということ。
  2.一見、大成功しているように見えるまちでも、問題を抱えているということ。
 重要なのはこれらの点に着目できるかどうかである。
 まちづくりは時代とともに変化している。10年前に求められていたことが、現在では全く違っている。この至極当然のことをわかっていない、まちづくり本がどれだけ多いことか。現場で動く者にとって、10年前に求められていたことをそのまま載せているようなマニュアルなど何の役にも立たないのである。また、最前線で戦う者が、自らは安全地帯にいて理論の構築に終始する者のいうことを参考にするだろうか。
 長坂氏は、常に第一線の人と交流する(ただの交流ではなく、心と心の繋がった)ことで、現場の生の情報と成功するまちづくりに普遍的に必要な「ツボ」を本書に詰め込むことに成功した。
 彼にまちづくりの現場の人間としての経験はないが、役割として与えられていれば、地域に入りこんでのまちづくりを成し遂げたであろうと想像できる。
 彼が、まちづくり屋に必要なあらゆる要素を備えていることを私は知っている。しかし、ある特定の地域のみのまちづくりをすることが彼の役割ではない。彼の役割。それは、日本全国のまちの中心市街地活性化を手助けすること。
 しかし彼は、彼がいくら講演をしようが、補助金を使ってハード面に投資しようが、活性化が成らないことを知っている。何より重要なのは、そのまちの「人」なのである。商店街の人だけではない。もはや、商店街の人だけではまちの活性化は成らない。
 主体が市民のまちづくりについても、本書は多数(和歌山県田辺市、兵庫県伊丹市、千葉県柏市、他)取り上げている。彼は、まちづくりにおいては、そのまちの誰もが主役に成り得る可能性があり、また主役と成って欲しいという願いを込めて、本書を書きあげたのであろう。
 また、彼も人間なので、彼の役割を果たし続けるには限界がある。本書によって、彼は少しでも多くの「まち」や、そこにいる「人」が気付くこと、動き出すことのきっかけとなることを願っているのである。
 本書を、まちづくりに携わるできる限り多くの方に読んで欲しいと切に願う。そして読むだけではなく、その日から行動に移してほしい。自分のまちで、取り組めることを始めるのもよい。まずは本書で取り上げられている事例を、実際に見に行くのもよい(その際は、必ず本書記載のキーマンにアポを取ることを忘れずに。長坂氏とキーマンの信頼関係ができているから、「本を読んで」と伝えれば、先方は快く迎え入れてくれるだろう)。
 また、長坂氏自身が主張していることだが、本書は決して、専門家だけの為に書かれたものではない。1部で、「中心市街地の現状」とこれから日本が参考にすべき英国の先進的なタウンマネジメントについてふれ(退屈だと思う方は飛ばして読み進めてもよい)、2部で、実際に彼が、地域に入りこみ、キーマンに話を聞いて噛み砕いた具体事例を取り上げている。この2部が、読み物としても非常に面白いのである。
 まさに「事実は小説より奇なり」。さまざまなまちの悲喜こもごもが、見事に描かれている。単に観光に訪れる人にとっても、裏側を知ることができるし、就職先に悩んでいる学生にとっても、「まちづくり」という分野に興味を持つきっかけとなろう。
 「今、書けるなら、全く別のまちや人のことも取り上げるんだけどね」とは、出版後の長坂氏の言葉。それくらい活発かつ急速にまちづくりは変化し、進化を遂げている。これから5、6年もすれば、この本に取り上げられている事例は古く感じられるようになるだろう。それまでに先進地域から、成功事例だけでなく失敗事例も含めて、さまざまなことを学びとろうではないか。そして、彼の、おそらく出版されるであろう本書の改訂版には、自分のまちを取り上げてもらえるよう、取り組もうではないか。
(株式会社みらいもりやま21/石上 僚)

担当編集者より

当初「全国のまちづくりのカリスマ的な方々に全員集まってもらって講演会ができればいいのに」などといった夢想から始まった本書の企画。それと同等かそれ以上のことを実現していただくために、全国のキーマンと強いつながりを持ち、特別に予備知識がない方にも分かりやすく紹介していただける長坂さんにお願いしました。寂れるまちなかの現状に疑問を持つ市民の方、商業者の方、自治体やまちづくり会社、コンサルタントでまちなかの活性化に取り組む方、研究者、学生の方など、中心市街地の活性化とこれからの都市・まちのあり方に関心を持つ皆様にお読みいただければと思います。
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