田園サスティナブルライフ
八ヶ岳発! 心身豊かな農ある暮らし

中島 恵理 著

四六判・220頁・定価 本体2000円+税
ISBN978-4-7615-2511-8
2011-06-01

■■内容紹介■■ 
自然資源が豊かな八ヶ岳山麓には、伝統的な暮らしや地域づくりの知恵が残されている。また、都会から移住し農的で環境に負荷をかけない暮らしをする人も増えている。環境省で働きながら、八ヶ岳で農家の嫁という二重生活を送る著者が、地域の数々の実践から、都会と田園地域のニーズをつなぎ、課題を解決するヒントを見出す。




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読者レビュー
 筆者の中島恵理さんは、公では環境省の職員であり、私では八ヶ岳山麓で農業を営む農家の妻であり、週末に田園ライフを送っている。平日は霞が関で官僚としての仕事をし、週末は長野県富士見町で家族と暮らす二地域居住を10年に渡って続けてきた。京都出身で、京都の大学を卒業後、環境省に入省。20代の頃にはイギリスの大学に留学し、2年間の英国暮らしをしている。日英の環境政策に精通しているだけでなく、両国内の様々な持続可能な社会づくりをめざす取り組みを、自ら現場に出向いて取材している。そしてそれらの“知識”は、ご自身の田園ライフ(農山村暮らし)での地域活動や農業の実践を通じて“身体化”され、“知恵”となっている。
 私が中島さんと出会ったのは4年前。環境省が主催する環境大臣との環境ビジネスに携わる女性の懇談会「環境ビジネスウイメン」を通じてである。事務局を務めていた中島さんの聡明で熱心な仕事ぶりが印象的だった。しかも、当時一児の母だったが、夫と子供は農村で暮らし、食を自給し、家をセルフビルドし、妻である彼女が都会で仕事をして収入を得ているというライフスタイルをお聞きして驚いた。夫は農業、妻は都会で仕事をする。なんと先進的だろう、そしてうらやましいと思った。
 『田園サスティナブルライフ』では、持続可能な地域づくりを検討する視点として、グローバルエコビレッジネットワーク(GEN)のCSA(コミュニティの持続可能性評価)から、「環境」「社会・経済」「文化・精神面」の3つの側面で12項目を挙げている。中島さんは持続可能性を、人間の成長、コミュニティの活性化、ソーシャルインクルージョン(障害者や高齢者などとの共生)と捉え、こうした側面ならびに八ヶ岳山麓の田園地域ならではの資源を活かした16の取り組みを紹介している。
 田園地域のサスティナブルな生活・社会とは、そこに住まう人が「自然の循環のバランスを崩さない形で農や森に関わることで、その恵みをいただき、また、地域の自然資源を自らの手で活用することで、環境に負荷の少ない自給自足による心豊かな暮らし」を追求することで実現すると提唱している。それは、「地域の中での自給、地域の中での資源、お金、人の循環、すなわちローカリゼーションがベースになっている」。そうした生活にあこがれ、都市から移り住んでくる人も少なくない。
 しかし、都市からの移住者は個人として心豊かな暮らしを送るだけでなく、地域住民の一員として行政、企業などと共に地域づくりに参画することが重要だと指摘する。この、“協働”の視点は、90年代から注目され、「まちづくり基本条例」や「市民活動支援協働推進条例」などが制定されてきた。田園地域においても、住民自治や地域活動への積極的な参加により、コモンズ(地域の共有財産)は守られ、受け継がれていく。
 今年春、産休が終わり、中島恵理さんは復職し、長野県に着任した。環境部で温暖化対策課長を務めている。きっとこれまでに培ってきた知恵を、地域の様々な方達と共有し、低炭素で農山村資源を活かした、豊かで幸せな持続可能な地域づくりを行い、多くの成果を挙げるにちがいない。中島さんもそうであるように、多くの女性は、命にとって大切なことは何か、という直感に基づいて行動する。地に足がついていて軽やかで、まずは身体が動く。こういう女性達を味方につけると、地域は変わる。
 各地で多様な主体のパートナーシップ(協働)による持続可能な地域づくりを志し、実践している方々に本書を大いにお勧めしたい。
(ロハス・ビジネス・アライアンス共同代表/大和田順子)

担当編集者より

 2005年に発行した中島恵理さんの前著『英国の持続可能な地域づくり』で触れられている「パートナーシップとローカリゼーション」という考え方に関心があった。中島さんはそれを学んだだけでなく、実際に八ヶ岳で実践しているというのだ。今でこそ「地域」が注目されるようになったが、まだまだ東京中心の社会構造だった。
 当時は霞ヶ関の環境省で働かれていたが、大好きな八ヶ岳に飛び込んで、心身ともに豊かなエコライフを楽しんでいる様子を伺うと共に、その背景にある日本における南北問題を話されていたことが印象的だった。都会を中心にものごとを考えるのではなく、これからの社会は、田舎から発信すべきだと。
 今まさに、それが問われる時代になったと思う。
 本当に持続可能な社会は、エネルギーにせよ、食べ物にせよ、自分たちのできる範囲でつくり、消費することで成り立つように思う。完全な自給自足は無理にしても、地域単位で循環させることで、できることはたくさんある。そしてそれを楽しみながら実行する。彼女の周辺には、そんな素敵な先駆者がたくさんいる。本書には、これからの暮らしと社会に大事なことが、人を想うあたたかい目線で込められている。
(Nk)