いま、都市をつくる仕事
未来を拓くもうひとつの関わり方

日本都市計画学会関西支部・次世代の「都市をつくる仕事」研究会 編著

A5判・224頁・定価 本体1900円+税
ISBN978-4-7615-1293-4
2011-11-01

■■内容紹介■■ 
都市における課題の変化とともに、都市をつくる仕事も大きく変わっている。そこには、従来の枠組みを超えて、信念と情熱をもって働くことで都市を魅力的にしている人たちがいる。本書では、その多様なアプローチによる「都市」のつくり方と、どうやって「仕事」につなげているかを探った。新しい可能性と期待を若者へ伝える。



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読者レビュー
 最近、「仕事」や「働き方」に関する本をよく見かける。そういった中で本書の特徴は「都市計画」を関わる実務、研究に携わる若手が当事者として「都市をつくる仕事」に向き合った成果であることである。
 まず、関西を拠点に「都市をつくる仕事」を実践する10人に対して、インタビューを行った(1章)。この10人は、従来にはない新しい職種を確立している人、これまでの職種の領域を拡大している人、既存の職種の中で創造的に仕事をしている人など、これまでの都市をつくる職種との関係という点で多様な人たちである。また、紹介はインタビューを忠実に再現するのではなく、研究会の関心である「仕事」で再構成されている。結果的に本書が現場のキーパーソンに着目した実践的なまちづくり事例本としての性格も持った。次に、さらに43人の「都市をつくる仕事」の実践者を対象としたアンケートを行い、実践者のバックボーンを理解する充実した素材を提供している(2章)。最後に研究会メンバーによる「都市をつくる仕事」に関する知見が整理されている(3章)。このあたまで個人の都市への思いからはじまり、具体的な行動を通じて他者に思いが伝わり、他者との関係が構築されることが力となり、都市の中で具現化していくという「都市をつくる仕事」のダイナミズムが描かれている(01個人の思いを都市へつなぐ)。これは本書の一つの成果である。
 さて、私が全体を通じて気になったのが、タイトルにもなっている「仕事」の意味である。本書における「仕事」は、「生計を立てる」ことを前提としているだろうか。文中では「仕事」と「職業」を区別している箇所がある一方、「仕事につなげる」「仕事をつくる」「仕事に就く」といった表現も登場する。これに関連して、ビルマニアカフェの高岡氏からは「仕事か遊びか、という問いのたて方自体がまちがっているのではないか」という指摘もされている。このブレは、最初に示された研究会メンバーの「期待と戸惑い」からはじまる葛藤を現しているのではないか。自分たちの将来を見通すために「都市をつくる仕事」で「生計を立てる」ことに関心があるのは当然だろう。しかし、最後には「楽しみながら働き、生きる達人たちの秘訣」として、「都市をつくる仕事」をするための「生き方」を提案している(08今日からできる「都市をつくる仕事」の秘訣)。つまり、「都市をつくる仕事」における「仕事」とは、生計を立てることよりも、思いや使命をもった活動、つまり都市での「生き方」が重要であるということに到達したのではないだろうか。これが、本書のもう一つの成果である。そして、この提案は「都市をつくる仕事」を志している人にとって、文字通り今日から実践可能な指針となっている。
 最後に、本書が関西から発信された意義を考えてみたい。関西は、日本を代表する大都市圏であり、多様な活動を生み出す基盤を持っている。一方で、文中でも書かれているように多様な実践をする人たちが出会うことのできる(ギリギリ)大きさでもある(東京ほど大きすぎない)。そういった点からも、関西における「都市をつくる仕事」の実践者に光をあてた本書が全国各地の「都市をつくる仕事」を志す人たちに有効な示唆を与えることが期待される。
(東京理科大学非常勤講師/杉崎和久)

担当編集者より

 
 この本は、関西で都市に関わる仕事をしている若手実務者、そして、関連分野の学生によって2年前に発足した研究会の活動をもとにしています。
 そもそも「都市計画」という領域は曖昧でわかりにくい。道路や建物をつくるだけが「都市」をつくることではなく、都市を快適で魅力的にするためにはいろんな仕事(関わり方)があって、がんばっている人たちがいます。それを、これからの都市づくりを担う若者たちに伝えたい、というのが本書の主旨であり、研究会の目的です。
 本書に登場する人たちは、企業・行政に所属するだけでなく、個人やNPOで活躍する人も多いです。仕事として(金銭的に)成り立っているかどうかは難しい面もありますが、いきいきと愉しみながら都市と人に関わる姿に、これからの可能性を感じます。
 小さな試みによって、都市は大きく変えられる(かもしれない)。本書を読んで、自分なりの働き方を見つけてもらえることを願っています。
(Nk)