日本社会の変革プロセスにクリアな見通しを提示する
3.11後、日本はエネルギーと社会のあり方をめぐって大きな転換点を迎えている。その渦中にあって、著者飯田哲也は「知の焼け跡」のような現状から、人々が確固たる意思と責任をもって新たな知を創造し、持続可能なエネルギー社会を築いていくことを提唱する。本書は、そうした日本社会の変革プロセスにクリアな見通しを提示するものである。
これまで地域独占の電力会社や官僚機構にエネルギーのあり方を任せてきた日本社会が抱える課題は山積みである。量産される補助金事業の失敗と問題点、地方自治体における政策知の欠如という問題、そもそも地域で知識・経験・社会関係資本を蓄積する「場」が存在しないなど、見渡せば課題ばかりである。
こうした状況にあって、著者は20世紀型の「供給プッシュ」から21世紀型の「需要プル」へと発想を転換し、地域からエネルギーの変革を創り出していくことこそが課題を解決する方法であると述べ、サクラメントやサンフランシスコ(アメリカ)・ベクショー(スウェーデン)・アーヘン(ドイツ)・バルセロナ(スペイン)・東京都(日本)など、豊富な事例を通じてその手がかりを提示する。
山積みの課題に挑む著者の日常は、国の委員会、各地域での政策アドバイス、講演・執筆に加え、世界の専門家・機関とのネットワーキング活動など、まさに分刻みのスケジュールである。3.11後は、その多忙度合いが倍増し、環境エネルギー政策研究所の活動・注目度にも大きな変化が生じた。そうした大きな変化の中で、著者は「エネルギーデモクラシー」を普遍知に据え、現実のさまざまな矛盾と課題に向き合い、実践知を創り出しながら統合知を目指す、その姿勢は3.11の前から変わらない一貫性をもっている。
(環境エネルギー政策研究所研究員/古屋将太)
担当編集者より
今、エネルギー分野で最も多忙な活動家である飯田哲也さんの待望の単著である。単行本を企画するにあたって、飯田さんが過去から現在までに書かれた膨大な論文やインタビューに目を通し、講演にも通った。
飯田さんの主張は、活動を始められた頃からまったく変わらない。変わらず主張し続けなければならないほど、この国のエネルギー政策は停滞してきたということだ。
日本のエネルギーを巡る閉塞状況を打開するのは簡単ではない、だけど、それを実現する方法は必ずあると、飯田さんの明晰な言葉の数々が教えてくれる。
(MH)
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