読者レビュー
欧州では、エネルギー供給が、従来の大規模集中から地域分散型へと大きく転換しつつある。もちろん、エネルギー供給源として考えられているのは、太陽光、風力、バイオマス等の再生可能エネルギーである。エネルギー転換は、同時に、地域の人々がエネルギー需給の中心になることでもある。本書は、欧州の多くの地域で取り組まれている事例を、多数紹介している。
エネルギー政策は、国レベルでの取り組みが注目される場合が多い。確かに、「固定価格買取制」(フィードイン・タリフ)は国家レベルで実施され、非常に効果がある。だが、これだけでは、エネルギー消費を減らし、持続可能な社会を形成するには、十分とはいえない。地域の人々がエネルギー利用のあり方を自ら変えていくことが必要である。
本書の著者たちは欧州に在住し、環境問題を日本人の目で見ている。そのため、欧州の人々が書くものとは異なり、本書は、日本が学びとるべきポイントがわかるようになっている。日本では、再生可能エネルギーに関する誤解が蔓延している。本書が、一般に広く読まれることを望みたい。
(立命館大学国際関係学部教授、『原発のコスト』(岩波新書)著者/大島堅一)
担当編集者より
昨年3月22日、東日本大震災から10日が過ぎた頃、スイス在住のジャーナリスト、滝川薫さんから1本の企画書が届いた。欧州在住のジャーナリスト仲間たちとまとめられたその企画書は、原発に触れることなく(原発があろうとなかろうと関係ないかのように)、地域でエネルギーは自立できることを紹介するものだった。
それから1年、著者たちはドイツ、オーストリア、スイス、イタリア、デンマークの先進地域を訪ね、首長、行政担当者、町のエネルギー事業者、市民らにインタビューを重ね、パイオニアたちが再生可能エネルギーの普及に取り組んできたプロセスを丁寧に紹介している。
「やる気のある住民が村の資本です」と、本書に登場する村の村長さんが語っている。本書に登場する小さな農村から大都市まで、エネルギーを意識して生きてきた人々が、地域を変え、国を動かす原動力となった。その生き方に、今こそ学びたい。
(MH)
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