評 : 吉田千秋 (ひたちなか海浜鉄道株式会社取締役社長)
バランスよくさまざまな事例を紹介・分析
ローカル鉄道だけでなくバスや飛行機、船舶に至るまで、まちづくりと交通に深い造詣をお持ちの運輸評論家堀内重人さんが"地域の自立を通した地方鉄道の活性化の考察"をテーマに著された「元気なローカル線のつくりかた」。
あらゆる観点からバランスを考えた13の事例が取り上げられ、分析がなされています。
地域的には東北のJR東日本八戸線から四国の高松琴平電鉄まで。経営形態ではJR、第3セクター、中小私鉄、民有民営型上下分離、路面電車等々。活性化策についても観光誘致型、事業者主体型、公募社長奮闘型、事業者の経営破綻からの立ち上がり型など。
ローカル鉄道と沿線地域の活性化に取り組み、なにかいい事例はないかと常にアンテナを張っている当時者にとって、こんなに見事にサンプリングされた書籍に出会えたことは、かけがえのない宝物を見つけた気持ちになります。
そして、気の弱い人にはなかなかできない取材時の著者の鋭い突っ込みと、それに丁寧に答えている事業者の皆さんとのやりとりもまた貴重。
小さい事業者は、普段からいろいろなアイデアを持ち込まれ「それ、いいな。」と思うことも多くあります。が、今やっている活性化策で手いっぱい。なかなかアイデアちょうだい、となりません。えちぜん鉄道の活性化策を「やらないの?」とぶつけられた福井鉄道の社長さんが明確に「社の方針としてそれはやらない。」と返答、それでもちゃんと利用客が増えている事例など、思わず「そうなんだよな」と相槌を打ってしまいます。この書には、今まで表に出なかったそんな鉄道事業者の本音も見え隠れしています。
そして各地の事例分析の後、最終章では東日本大震災やヨーロッパの先進的な公共交通政策を絡めながら、これまで国が行ってきた公共交通維持に関する法整備の流れを検証しています。
鉄道と地域の活性化。そのバイブルとして、本書をご一読されることをお勧めします。
担当編集者より
自家用車を売るための道路建設には税金が惜しげもなく投入されるのに、地方鉄道は少しでも採算がとれないと「補助金は無駄」「廃止せよ」の大合唱…
そんな過酷な状況のなかで、廃線の危機を乗り越え、地域の足を守ってきた鉄道はなぜ存続できたのか?
撤退した鉄道会社と何が違ったのか?
そんな思いで本書を企画しました。
本書の見どころは、著者ならではの鋭い質問力で現場の生の声に迫っていることでしょう。
本書が鉄道復権の流れを少しでも後押しすることに貢献できれば幸いです。
(岩崎)
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