スマート・テロワール
農村消滅論からの大転換

松尾雅彦 著、浅川芳裕 構成

四六判・256頁・定価 本体1800円+税
ISBN978-4-7615-1344-3
2014-12-15

■■内容紹介■■ 
農業・農村こそ成長余地がある。15兆円穀物産業創造の提案。
その鍵は余っている水田の畑地への思い切った転換です。そこで国内自給率が低い穀物や家畜を育てます。その穀物や畜肉を地域の既存の工場で加工し、新鮮なうちに届け、最高の味を提供します。一方、地の利を活かし流通・広告コストを抑え、「日常食品」で輸入原料による商品と対抗します。
地域の加工場やお店・消費者と手を結び、食と農を地域に取り戻すのです。
こうして曖昧な活用の水田100万haがよみがえれば、15兆円の新しい産業が生まれます。スマートテロワールはそのための30年ビジョンです。



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評 : 宗田好史 (京都府立大学教授)


 農業と農村を語る本の多くは、現状を肯定した上で、その再生への道筋を描こうとしているように見えます。しかしこの本は違います。売れる農産物を作り、過疎化する農村に若者を呼んで従来のやり方か多少改善した農業に従事してもらうというような、対処療法ではなく、瑞穂の国の水田の半分を大胆に畑作に転換することからという根本的な治療、つまり現代の日本農業の大転換を説いているのです。
 7千ヘクタールの畑でポテトチップスのカルビーが契約栽培する畑を見れば、有効活用されていない100万ヘクタールの水田の1割でも同様の転換は起こるかもしれません。長年の供給過剰を顧みず、稲作にこだわる農業には無理があります。現代の国民が求める食料需要に応え、農業者の自由な発想と創意工夫で食の可能性を追求する農業が不可欠です。この本は、この転換の道筋を示しています。
 そんなことは不可能だと思い込んでいる関係者を啓蒙することの難しさは容易に想像できます。でもこの本の分りやすい内容に触れた皆さんが、ごく当たり前に思えるこの道筋に共感し、共鳴することで、頑なな意識が変わっていくのだと思います。
 今や我々の食生活に溶け込んだカルビーの経験が教えてくれる食と農の新しい未来が日本の農業と農村を変える可能性に大いに期待しています。

担当編集者より

 お話を聞いて新鮮だったのは、農業・農村が持続するには、野菜や果物の高付加価値路線では限界があるという指摘です。
 まして自給率が高いお米では伸びしろもないこと、だから自給率の低い穀物を育て、ボリュームを狙える普通品に地元で加工し、まずは地元で消費しようと言われるのですが、この「普通品」「ボリューム」というのがスゴい。商売は利益率ではない、量がいるんだってことは、確かに忘れられがちです。さすがポテトチップスを1000億産業に育てた人だけに、なぜか説得力があります。
 それにしても、美味しくて、顔の見える商品が、全国ブランド商品よりも安く、あるいはせめて同じ値段で売れていたら、私なら地元産を買います。
 もちろん、容易ではないでしょうし、30年かけて変えていこうという構想ですが、私も生きているうちに端緒でも味わいたい。
 この構想が実現に向けて動いてくれると良いなと本当に思えた本です。
(前田)


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