評 : 鈴木 菜央 (greenz.jp 編集長)
エネルギーを自分事につなげる≠スめに
本書の冒頭に登場する村楽エナジーの井筒耕平さんを「新しい時代のエネルギーベンチャー企業」として取材させていただいた。廃業した温泉宿を「元湯」として復活させた井筒さんは、まもなく薪ボイラーを導入するということで、そうなれば、薪で沸かしたお湯に浸かって、エネルギーの地産地消を肌で感じることができる。
僕が編集長を務めるgreenz.jpでも何度か取材をさせてもらっているが、西粟倉村は「100年の森構想」というビジョンのもと、放置された森の木を有効活用しようと「西粟倉・森の学校」という会社が立ち上がり、面白がって集まった若者たちがじつに様々な分野で起業している。そして彼ら彼女らは、地域と生態系のようにつながり始めている。井筒さんもその一人だ。有り余る森林資源から薪を生産し、温泉事業を興し、さらには村と協働して、地域に熱を供給する構想もあるという。一人ひとりの幸せと、持続可能な地域づくりを、エネルギーを通じて行おうとしているように感じた。この西粟倉村のように、エネルギーを「エネルギー」として考えるのではなく“つなげていく”発想が重要だと思う。さらにマクロな視点で西粟倉村の成功を支えるのは、役場が率先して彼らの動きを支援している点だ。県も通り越して国に直接話ができるような関係を築いている。山奥の村と国がダイレクトにつながる、そのインパクトは大きい。
本書は現場から企業、国の政策まで、一見ばらばらに動いているように見える実践者たちを、広くつないで見る書籍だ。国の政策は手触りがなく、エネルギーはなかなか自分事にしづらい。でもだからこそ温泉で温まって「へえ、これ薪で沸かしたお湯なんだ」と思ってもらうことが重要だ。市民一人ひとりの感覚からはじまって政策に到達するというルートこそ、自治体や市民が自ら考え、行動して、責任をとるための第一歩だ。政策やビジネスといったマクロな社会事情に現場の声がもっと接続され、住民から国への回路をつくることができると、社会もがらっと変わるはずだ。これから僕ら市民の側も、実践者として、もっと政策に影響を与えられる動きをつくっていきたい。
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