なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか

田口 理穂 著
四六判・208頁・定価 本体2000円+税
ISBN978-4-7615-2603-0
2015/08/20



国民の総意により脱原発を宣言したドイツ。
再生可能エネルギーが電力消費量の約3割を占めるまでに普及しているのはなぜか。
それは人々の環境意識が高いだけでなく、投資が報われる仕組みや法制度が支えている。
市民、企業、行政がどんな取り組みをしているのか、ドイツ・ハノーファー在住の著者が、市民目線で最前線を紹介する。



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評 : 大島 堅一 氏(立命館大学国際関係学部教授)


持続可能な社会を拓くためのヒント

 国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新の報告書によれば、このままのペースで温室効果ガスが増大すれば、今世紀末の気温は5度近く上昇する可能性があり、そうなれば甚大な被害がでる。他方、原子力発電には、事故にともなう放射能汚染の危険性があるばかりでなく、放射性廃棄物の処分に大きな困難がある。
 つまり、エネルギー利用にあたっては、二酸化炭素を大幅に削減し、同時に、原子力発電をやめることが、環境保全上もとめられるようになっている。二酸化炭素の大幅削減と脱原発を同時に達成するためには、エネルギーの徹底した効率的利用と再生可能エネルギーの普及が不可欠であり、そのためにはエネルギーの利用のあり方を根本から変えなければならない。現代社会はエネルギーの大量生産大量消費を前提としているため、この課題の達成には大きな政策変更が必要とされる。
 ドイツは、先進工業国でありながら、この課題に正面から取り組んでいる国である。エネルギー利用の構造を根本から変えることを、ドイツでは、Energiewende(エネルギー転換またはエネルギーシフト)とよんでいる。ドイツではエネルギーシフトを達成するための政策目標を定め、具体的な政策を実施している。エネルギーシフトに対する国民の支持は非常に高く、自治体や企業も、エネルギーシフトにむけた先進的取り組みを進めている。
 本書は、現実に進んでいるドイツのエネルギーシフトの取り組みを、実際の取材にもとづいて活き活きと紹介している。取り上げている事例は、パッシブハウス、ゼロエミッション住宅などの省エネルギーの取り組みから、市民、自治体、企業の再生可能エネルギー事業、さらには脱原発を決めたドイツが挑む放射性廃棄物処分など、非常に幅広い。
 日本と同じ先進工業国でありながら、ドイツはなぜ日本とこれほどまでにちがうのか。このことがわかれば、日本において持続可能な社会を拓くためのヒントをえることとなろう。本書は、全体を通して文体も平易で読みやすい。エネルギー・環境問題に関心のある市民から、最新事例の概要を知りたいと考える専門家まで、広く読まれることを期待したい。


担当編集者より

本書は、ドイツで暮らしている田口さんが、市民の目線も交えてドイツの取り組みをまとめた本だ。
エネルギーシフトが進むドイツでは、省エネ対策にも熱心で、住宅や教育面でも手厚くフォローされている。
電力を選ぶことに加えて、使う量を減らす。そんな当たり前のことを無理なくできることが強みだと思う。
日本でもできることから始めたい。

(中木)




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