評 : 紫牟田 伸子 氏(編集者、デザインプロデューサー)
魅力的な都市の個性を考えるために
本書は「水辺を使い倒そう!」という人のためのガイドブックである。海に囲まれ山から流れる水の豊かな日本において、水辺はもっと豊かでワクワクするものなのではないか。いや、絶対そうだ。それなら、真正面から水辺を楽しむアクションに取り組んでみようという人に最適の書である。実を言えば、国交省は水辺をもっと利活用できないかと、2004年に「河川敷地専用許可準則の特例措置」を出し、社会実験としてカフェテラスやイベントなどの利用を可能にした。さらに2011年、準則改正により特例が一般化され、河川敷地でも民間営業が可能になった。つまり、公共空間として積極的に利用できるようになったのだ。
しかし、法が変わったといっても、「じゃあ、どうする?」「でもね、どこに話せばいいの?」といった困惑がまだまだ多いのが現状だ。そこで本書の出番である。ここでは、水辺の楽しさを見つける→伝える→設える→育てる→広げる→成果をはかると順序だてて取り組み方を説明してくれる。
中でももっとも重要なのは、水辺のマネジメントの部分が詳述されているところだと思う。管理者−使用者という単純な対立項で捉えるのではなく、多様なステークホルダーが連携して水辺を周辺のまちづくり、雇用の創出、管理、イベント実施などといった多様な役割を担うものとしての水辺のスキームづくりとして、質の高いエリアマネジメント組織をいかにつくるか。ここに「楽しむアクションを誘発する」仕組みが生み出される。
本書ではパリやセビージャ、サンアントニオをはじめとする国内外の取り組みが紹介されているが、なんといっても2001年から始まった「水都大阪」は、足掛け15年の間、ありとあらゆる角度から水辺にアクションを仕掛けている。その足取りがまとめられているのが嬉しい。
水辺は魅力的だ。ビールもうまい。水辺の魅力は都市によって異なる。だからこそ、さまざまなアクションが都市の個性を生み出す。魅力的な都市を考えるとき、水辺を再考することは日本の都市には不可欠だろう。
担当編集者より
いま、水辺でさまざまな動きが起きている。制度や権利関係が複雑で手を出しにくかった水辺に対し、地道にアクションを重ねてきた人たちの努力により、心地よく楽しい空間が各地に繰り広げられてきた。
オール大阪で都市を盛り上げてきた「水都大阪」をはじめ、パリやシンガポールといった海外の水辺の使いこなし方まで「こんなこともできるんだ!」という驚きに満ちている。それぞれの地域で実践するにあたって参考にできる話も多い水先案内本である。
(中木)
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