評 : 冨田 宏治 氏(関西学院大学法学部教授)
橋下維新は何故真実を怖れるのか?
橋下徹氏がまるで鬼か蛇の如く怖れ、忌みきらう言論人がいる。本書の編著者のひとり、藤井聡教授である。藤井教授の言論を封殺するために、橋下維新が手段を選ばず「弾圧」に走った経緯は、本書第4章に詳しい。そして、この言論封殺の策動は大阪府知事・大阪市長ダブル選挙において、なおも繰り返されている。
橋下維新は、どうしてそこまでして藤井教授の言論を怖れるのか? その舌鋒鋭さの故か? 確かにそれもあろうが、何よりも藤井教授が学者として、その良心のみに従って、事実に基づき真実を語るからに他なるまい。橋下維新は、事実と真実を徹頭徹尾怖れるからである。何故、怖れるのか? その理由は、本書全体があらゆる方面から明らかにしてくれよう。
本書は、橋下維新政治に対する政治批判の書ではない。一般読者にも読み易いようにおおいに工夫はなされているが、都市社会工学、都市計画学、政治学、行政学、社会学、財政学、教育学、防災学などの学者・研究者の手になる立派な学術書である。それぞれの著者は、学者・研究者としての良心にのみ従い、事実に基づき真実を語るのみである。
第1部では、オルテガの「大衆化」とアレントの「全体主義」という概念を駆使しながら、「改革」全体主義としての橋下維新政治がトータルに分析され、第2部では、教育、医療、公務労働、財政、産業政策、都市計画、防災といった個別問題に焦点があてられ、「改革」全体主義の政策とその実態が検証される。そして、第3部では、以上の分析、検証を踏まえて、橋下維新政治に対するオルタナティブが提示されている。
編著者のひとりである村上弘教授が語るように、「事実を明らかにすること自体が、現実への批判になることもある」のであり、橋下維新政治とその「改革」全体主義の実態を事実を以って検証することは、その典型例であると言って良かろう。その意味で、本書は橋下維新に対する決定打とも言うべき政治批判の書でもある。
橋下維新の「改革」全体主義が、特殊大阪的な現象に留まるという保証はどこにもない。本書が明らかにするように、それはどこにで起こり得るものである。橋下維新政治を特殊大阪的な地方的エピソードに終わらせるためにも、多くの人びとに本書を紐解いてほしい。
担当編集者より
本書は橋下市政を自治の観点から問い直し、大都市大阪の現状について何を知り、考えるべきかを明らかにする試みとして書かれました。
大阪の街は水辺利活用のように橋下市長の突破力によって前進したと言われることもありますが、市長の「決断力」「スピード感」といったイメージが定着する一方で、その中味も具体的・多面的に語られる機会があって良いと思います。ダブル選挙を控えたこの時期、ぜひご一読ください。
(井口)
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