評 : 辻野 啓一 (日本エコツーリズム協会事務局長・元JTBハワイ社長)
『クレーム転じてファンとなす』の例で続編を期待
ハワイで旅行会社の社長をしていたとき、夜の11時頃「お客様が怒っているので謝りに来てほしい」とスタッフからの悲痛な電話。ホテルに着くとホテルマネージャーから「風呂に熱いお湯が出ないとお怒りなのです」と説明があったが、実はまずはお湯が出ないことがお怒りの発端だが、怒りの本当の原因はクレームを挙げた後のホテルの誠意を欠いた対応に対してであった。
クレームによくあるパターンだ。始めにちゃんと対応しておけばよいものを、おざなりな対応で火に油を注いでしまう。本書はその勘所を的確に、しかも愛情をもってとぎほぐしてくれている。
本書の構成は、@お客様のクレームとクレームの背景、Aクレームを受けた側の釈明、そしてB作者のコメントという順だ。各エピソードをAまで読んだ時点で一度本を置き、大岡越前ならぬ安田・菅生越前がどのようなお裁きをするか自分で想像しながら読んでみた。
「そうだろうな」という回答もあれば、「そう考えるべきだったんだ」と思わず唸る名ジャッジも数々あった。根底に流れる考えは実に中立な立場である。
この時はこうすればクレームにならずにすむのにと、まさに本書の題名が示すようにクレーム予防に大いに役立つ読本なのである。一件、一件が示唆に富んでいるので、サービス業に従事する人は再三再四繰り返して読んでほしい本だ。
さらに、途中まで読み進むと、これが単なるクレーム予防の本でなく、実は作者一流の『サービス論』『ホスピタリティ論』であると気づく。
クレーム対応はマイナスだった評価をゼロまで回復させることに終始しがちだが、それでは弱くお客様を少なくともハッピーに、場合によってはその会社のファンに変えうると言う、極めてやり甲斐のある仕事である。
本書にはそういうヒントが随所に書かれているが、さらに『クレーム転じてファンとなす』の例を続編で書いていただき、ややもするとクレーム対応は気の重い仕事だと悩んでいる人たちに元気を与えてほしい。続編が、心から待ち望まれる。
担当編集者より
私は海外旅行の現場は門外漢だが、会社でトラブル、クレームを経験するたびに、ちょっとした心遣いのなさ、気の緩みが、最後の最後に先方の怒りを誘発することを痛感する。あのとき「こうしておれば」「ああしておれば」と悔やみながら後ろ向きの仕事をすることの何と空しいことか。
本書の事例は海外旅行の現場なので、その関係者にしか役立たないと思われるだろうし、実際、他の業界、職種の人が読んでくださることは少ないだろう。ただ、同じく他業界に属する一読者として読んで、部下に読ませたいと思った。
(前田)
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