2003.8


連載第四回は「創作和食」
ウマ飯不毛地帯で、手の込んだ和食ににんまり。


かりん
上京区堀川通丸太町通西入



めにうとお値段
ししゃも南蛮漬、トマト、タンドリーチキン、焼野菜(万願寺唐辛子)、鮭ルイベ、ビーフジャーキー、豆腐味噌漬、タコのカルパッチョ、ニシンのこぬかづけ、カゴメソースヤキソバ、ベタ焼きポテトにビールにワインで5000円也

 今回紹介する店は、最近二条城近くに移転したかりん。移転により変わったのは、お昼ご飯もやるようになったことと、以前の隠れ家的雰囲気がちょっと薄れたこと。お昼にはまだ行っていないけど、定食風のものもあるようなので、みなんさんぜひ行ってみてください。もっとも、夜に行くと時々、タンドリーチキンはお昼に全部出てしまいました、などと言われることがある。これは結構悲しいことです。店としての展開は歓迎する一方で、かつてのように夜一本でやってくれてもいいのかなとも思います。
 ところで、場所は変わったものの、味は変わっていない。ここの料理は、どれもちょっとしたオリジナリティを見せてくれていて魅力的ですが、なんといってもお勧めは、「かりん特製ビーフジャーキー」です。柔らかくてコクのある味で、ビールにもワインにも、日本酒にもいけます。空港で売っているようなアメリカンなジャーキーしか食べたことのない方は、これがジャーキーなのかと思うような、格調の高い味です。私があちこちで推奨している一品。それから、この日も最後に食べたソース焼きそば。これは、カリッとした細麺にカゴメソースが絶妙に絡んだ懐かしい味で、呑んだ後、仕上げに食べるには格別のおいしさ。かつては呑んだ後はラーメンと決めていた私も、いつしかソース焼きそばの虜になっていました。ジャーキーに焼きそばというと、なんか場末の一杯飲み屋的な感じがしますが、移転後の新しい店も、気の利いた空間で上品な料理が味わえます。
 紙面の都合で詳細はN丸、N吉に譲りますが、タンドリーチキンや豆腐味噌漬は独自の味付け、鮭ルイベとタコのカルパッチョは食材の良さとそれぞれにポイントは高く、いずれもレベルの高い料理です。
  ちょっと汗をもてあました体に、さっと枝豆とビールを出してくれる。ここ「かりん」は、お姉さん二人が、いつもとっても気持ちのいい空間をつくってくれるお店。
 ここんちのウリは、「漬け」のウマさ。漬物にあらず。
 え?鯵じゃなくてシシャモすか?とゆ南蛮漬からシシャモの油気はすっかり抜けてて、一緒に漬け込んだ玉ネギがほのかに甘酸っぱいことにやられます。ニシンこぬかづけは西京焼ほど甘くはなくて、ニシン自体のさっぱり味を生かした焼加減。豆腐味噌漬は、単に塩辛いだけではない、発酵した味噌の風味と、豆腐の「軽いけれども腰据わってる」大豆バトルが、付け合せの大根にのっけて口に入れた途端、もあ、と広がりまする。〆に食べたヤキソバも、重すぎずサクサクとしてうまいっす!しかも、ソース味なのにしつっこくない。
 こんなふうに、手間をかけてしか作り出せない味ばかり。板さんをたっぷり抱えて新鮮な魚介類を食わせる、という店にはない細やかさをここんちには感じます。噛めば噛むほどおいしい、ってゆんでしょか。お店のHPはまだ作成中。詳しい情報はこっちにのってます。
→leaf ホームページ
 かんなり呑んで喰って、一人5000円。
 繁華街から離れてるし、移転したばっかでお客さん少なく、今んとこおすすめですぜ。ただ、ガラス張りにつき夜は外からよく見えるんで、密やかでえとにはむかんかも。加えてテーブルの奥行きが深くてお向かいとちっと遠く、親密〜にはなりにくいですな。てな訳で、ここんちではテーブル席に陣取って数人で、もしくはカウンターでお姉さん方とゆっくりお喋りしながら一人、お酒とお料理を楽しむのがよいかの。
 最近は少なくなったが「素人料理」という看板を掲げる店がある。これは、「ジャンルにとらわれない料理を出すけど、正式な料理の修練を積んだわけではないので大目にみてね」という、料理を作る人間の、多少ともへりくだった意識が表明されている。それに対して、最近では「創作料理」の看板を掲げる店が増えた。これは、ジャンルにとらわれないのは、料理人の「創作」だからなのだという、自負心が表明されている。
 「かりん」は、「素人料理」でも「創作料理」でもない。ちょうど、その間にあって、そのことが最大の魅力になっているのだと思う。2人の女性スタッフが作り出す料理は、「素人」の領域をはるかに超えた洗練さを持っていながら、「これは、すべてのジャンルの料理法に精通した私たちの作品です」といった嫌味がない。
 一番おいしかった「タコのカルパッチョ」。とてもおいしそうな明石のタコを仕入れた。だったら、ストレートに刺身にするのではなくて、カルパッチョにして工夫してみましょう。いかにも「素人」的発想か。けれども、それを最上の味で実現させるセンスと技術を持っている。タコそのものの味だけではない。その技量は、付け合せについてきた酢漬けの大根でも実感できる。タコに合うように微妙な味付けにアレンジされている。これにはまいった。
 そのほかのタンドリーチキンも、ビーフジャーキーも、ソースヤキソバも、びっくりするようなオリジナリティにあふれたものばかりである。しかし、どれも「こんな風にしたらおいしくなるんじゃなかろうか」という、割と単純な発想の上に、きわめて洗練されたノウハウをつぎ込んでできた味ばかりであることに気づく。
 料理の味を洗練させるとはどういうことなのか。改めて考えさせられるお店である。

 
  N蔵(えぬぞう):著述業に転進。迫りくる胃カメラデイに募る憂鬱  
   
  N吉(えぬきち):編集者。夏バテで食細りビヤガーデン焼肉に降参  
   
  N丸(えぬまる):団体職員。美食のお供に万歩計で摂生を心がける日々