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今回はフランス料理でした。
まずは、メインで選んだ「鹿児島産豚肉と豚足の自家製ソーセージ」のことから書いていこうと思っています。もちろん、基本的に肉好きだからこれをチョイスしたわけなのですが、このソーセージ、かなり上質でした。まあ考えてみれば料理のほとんどは自家製なんだろうけど、そのなかであえて「自家製」と銘打つというのは、かなり自信がある、つまり、普通に食べられるものとはまったく違いますよ、という気持ちをこめているのだと思います。たしかにこのソーセージは、独自の感覚と味覚を味あわせてくれました。
ナイフを入れたときの手の感覚は、プチンとはじける感じでもなく、柔らかく切れ込む感じでもなく、力強く押し返してくるような感じでした。意外な野性に驚かされるような。そして、味のほうも、やはり手の触感に通じるもので、うまく組み合わされた豚肉と豚足の歯ごたえの堅さと、すこしピリッとする味付けが、とてもおいしく感じられました。「つまみ」という印象のあるソーセージをメインにもってくるだけのことはあるなと感心しました。
しかし、じつは、最初のオードブルのときから、この店の料理全体に独特の力強さがあるような感じを受けていました。それは、歯ごたえがあったり、見かけ以上の味の強さであったりしました。オードブルは「アボガトのテリーヌ、シュガートマトと小海老のサラダ添え」だったのですが、テリーヌにしても小海老にしても、はっきりとした自己主張のある味でした。N吉から一口もらったサーモンもそうでした。
このような味は好みの分かれるところかな、という気がします。食べる時の気分や体調にもよるのでしょうが、この店の味付けは、私の感じでは、ハイな気分で、さあ行くぞという、そんな気持ちになっているときに食べるといいような味という印象を受けました。
そして、最後に「一口の変わりご飯」を出そうという意気込みに、この店の自己主張の強い個性が感じられるのではないでしょうか。
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京都の岡崎は観光地区。平安神宮や疎水、足を伸ばせば南禅寺があって、季節によっては観光客で溢れる地域です。そのうえ、国立近代美術館や市立美術館等も立地し、N吉自身も展覧会を見るために二ヶ月に一度は訪れるエリア。美しい芸術作品を見た後に、その余韻を反芻しながらちょっと一息、したいのだけれど、こじゃれたお茶どころや、落ち着けるご飯どころなんてのが、驚くほど少ないのです。あ、京都人期間が短いため、単に知らないだけ、ということも言えると思いますが。
そこで、今回のビストロです。疎水から少し離れているので岡崎地区と京都中心部との回遊路にもなりにくいのか、人通りもそんなに多くないエリア。夜のメニューは5,000円のプリフィクスのみ。全部で6皿のうち4皿を選べるという、うれしいコースです。
まずはオードブルがありきたりの「前菜盛り合わせ」ではない、ということに唸らされます。少し背の高いガラスの器が、ピーマンの黄色とサーモンのピンクを透かしていて、とてもきれい。
フレンチというとソースの味や重さにまず印象をもってしまいがちですが、ここんちは、その一歩手前の「お出汁」をとても上手に生かしています。前菜の黄ピーマンのババロアにはコンソメ、変わりご飯には椎茸出汁と、食材のおいしさを引き出す出汁の味が、決して前にはでてこないけど効いてます。そして出汁がしっかりしているから、ソースは軽くてあっさりめでも十分ウマイ。これこそまさしく薄味都市京都のフレンチですな。とはいえ、あっさり物足りない、ということはありません。メインの山鳩のローストは、チキンとは違う野趣あふれる風味と歯ごたえとが、しつこすぎない重さをもってせまってきます。お手製パンも軽くてさっくりホカホカで、ついおかわりを。
つかず離れずなマダムのサービスも心地よく、迷いに迷って選んだチーズで残りワインを楽しみながら、ずいぶんと長居をしてしまいました。いつもよりは少しおしゃれをして、ゆっくりひっそり、大事な人と訪れるのに最適なお店かと。
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実は、フレンチほど店の雰囲気に左右される料理もないんじゃないかと思っている。味覚をストレートに口で感じるのではなく、その味覚の持っている厚みや奥行きを「文化」として楽しむ。フレンチは、そうした深みを味わいたい料理なのだ。したがって、店の雰囲気は重要となるはずだ。
だから、「お手軽」などということを標榜する店には、フレンチに限ってはあまり行きたくない。でも、だからといって、重厚で威圧的なゴージャス店舗は、もっと行きたくない。そこで、この店の登場である。
場所は、京都の中心地でもないし、郊外の住宅地でもない。岡崎とは言っても、そばには大型スーパーもある雑駁な場所である。そんな場所なら、とても「お手軽」に利用できそうな気になる。しかし、店先に大きなフランス国旗が掲げられ、フレンチのレストランであることを強く主張する。さらに、照明から内装まで、さりげないが、きちんとフレンチ・レストランの上品さを実現させているのだ。このお手軽さと上品さがバランスをとっている感覚こそ、この店の最大の魅力だろう。
メニューは、プリフィックスのコースだけである。しかし、まかなうのはシェフとマダムの二人だけだから、この出し方がベストであろうし、背伸びをしていない感じが、フレンチにありがちな大仰な雰囲気から逃れられているとも言える。
そして、そうした心地よい雰囲気で味わう味覚は、これまた想像通りに質の高いものだった。こんな場所で、こんなに上質なフレンチが食べれるなんて、という感想を誰でも持つだろう。その味の特徴とは、まさに店舗と同様で、さりげないことである。
全体に味付けがさりげない。つまり、強くないのである。そのために、魚貝のムースの湯葉包みなどという料理が登場する。こんなもの、通常の強い味付けのフレンチでは思いつかないメニューだ。最後に出てきた、ピラフ状の御飯にだし汁をかける「変わり御飯」も同様である。微妙な味付けだからこそ実現される奥深さだった。これはいい店を発見したぞ。
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