2004.5


連載第十回は「タイ料理」
学生街の老舗にて、辛みとビールに身を浸す。


デポサワディー
左京区一乗寺白川通北大路一筋下ル東入ル
めにうとお値段
生春巻き、トムヤムクン、タイ式さつま揚げ、揚げパン、自家製ソーセージ、まなかつおの甘辛餡かけ、タイ式酢豚、チキンのレモングラス風味、赤いカレー(チキン)、米粉ラーメン、卵とポークのお好み焼き、デザートにドリアンアイス、ココナツアイス、タピオカあんこ、にシンハービール次々、と食べ過ぎて一人6500円。

 今回は白川通から東に入ったところにあるデポサワディー。方向オンチのN吉が例によって(?)遅刻をしてきたことでもわかるように、ちょっとわかりにくい場所にあります。向いには日本酒のおいしい「無法松」があります。
 この店、本格的タイ料理と銘打つだけのことはあるおいしさです。むかし(といっても十数年前)に何回か通った時よりも、こちらが大人になったせいか、辛さも含めたおいしさを十分に堪能できました。以前は、ひたすら辛いカレーに挑戦して、汗をかいて力尽きていたような気がします。そんな若さを懐かしみながら赤いカレーを食べました。
 この赤いカレーは絶品です。たしかに辛いのですが、まったくしつこさがなく、さっぱりとしています。ちょっと堅めのタイ米とうまく合っていてさらりと食べられる、そんな食感が何ともいえません。今回はチキンを選択しましたが、エビなんかもいいかもしれません。
 たしかに全体としては辛い料理が多いのですが、それぞれの辛さが微妙に違うので、その違いを楽しむ余裕をもって臨みたいものです。でも、あまり辛いのが続くと…と思われる方は、途中でポークのお好み焼きをつまむことをお勧めします。なんてことはない卵とポークの組み合わせなのですが、辛さに圧倒された後に食べて一息つくのに向いています。
 今回食べたなかで、あえてあげれば、チキンのレモングラス風味が単調でいまひとつという印象でした。レモングラス料理では、ヴェトナム料理の「ティエム・フォーンヴィエット」で食べたアサリの方に軍配が上がります。
 最後になりましたが、この店でまず第一に注文すべきは自家製ソーセージです。これは、ソーセージ自体のおいしさに、生姜を合わせるという意外性が楽しいものです。添えてあるピーナッツも一緒に食べると三種類の歯ごたえが微妙に合わさって、また楽しさが増します。これをシンハービールと一緒に食べると、それだけで幸せな気分になります。
 白川通の北のほうって、学生のゆく安くてボリュームいっぱいな店ばかりなのかと思ってました。で、あんまり足を踏み入れたこともなかったのですが、N丸のオススメとゆことで出かけてみました。そして案の定、迷いに迷って遅刻しました。すみませぬ。
 さつま揚げや揚げパン、トムヤムクンなど、ほどよくに辛みの効いたお料理に箸をつけます。ふあ〜、まだ初夏だとゆのに、ビールが進みます、進みすぎます。
 餡かけや酢豚は中華料理にもあるメニューですが、やはりまさしくタイ式オリジナル。中華より野菜の甘さを引き出しながらも、辛さと酸っぱさがちょっと野生を感じさせますな。ベトナム料理ほど西洋におもねらずとんがってて、「我ら地産のスパイスで勝負ですタイ」とゆ心意気が料理から感じられます。でも、押し付けがましくなくて、甘さから辛さにかわるアジアの混沌をも表現。
 カレーは、ほんとうは豆のカレーが大好きなのに、野菜嫌いN蔵の賛意を得られず、N丸と涙をのみました。次こそは。
 メニューには、辛さ指標もついてて親切かつ多彩です。で、いつものごとく次から次へとオーダーをして、おなかがはちきれそうになってしまいました。苦しいです。なのにやっぱり、デザートを頼んでしまうわが身を呪う。
 笑顔のとても素敵なタイ人のお母さん、バイトさんかな?だけど気が効いて感じのいいお嬢さんたち、それからお父さんとの心地よい会話を楽しみながらお料理つっつくのが楽しいお店。だから、恋人としっぽりじゃなく、大勢でわいわいでもなく、美味しいモノが好きで、コミュニケーションスキルもそこそこありそうで、ほんでもってこれから仲良くなりましょ、ってな人々と少人数で繰り出すのによき店なのではないでしょか。
 京都のグルメガイドなら、どの本にも載っているだろう、老舗のタイ料理屋である。京都では、このようなお店には注意が必要である。観光客相手に成立している場合が多いからだ。リピーターがつくことを目標とせず、観光目的の初めての客さえ満足させればよいと考えている店でも、京都ならば有名店になってしまうのだ。
 でもここは違う。ほんとうに美味しいタイ料理を食べようとすれば、ここにくればよいと多くの京都人が思っている(ほんとうか?)。ここのトムヤムクンを食べれば、トムヤムクンというスープ料理が、どのようなものなのかがちゃんと理解ができる。納得ができる。そんなお店だ。
 タイ料理の真髄はスパイシーであること。これは間違いない。それに甘さがついてくる。しかし、単に香辛料の奥深さだけで成立しているわけではない。そのことを、このお店の料理は教えてくれる。スパイシーであることの前に、とても出汁が効いているのである。もちろん、日本の出汁とは大きく異なるものだが、料理のベースになるような奥深い何かが存在する。
 トムヤムクンでもそのことは感じられるのだが、スパイシーな辛さが、その存在をわかりにくくしていることは確かだ。今回は、最後のほうに食べた米粉ラーメンで、タイ風出汁の存在を思い知らされた。単に魚醤(ニョクナム)の出汁ではない。日本の出汁と同じような「うまみ」が上手に出ているのだ。今から考えると、自家製ソーセージやまなかつおの甘辛餡かけにも、共通した出汁の奥深さがあったように思う。
 料理というのは、そのベースとなる出汁で決まる。つくづくそんな当たり前なことを再認識させてくれるお店である。でも、いくら美味しいからといって、われわれのように食べ過ぎてはいけない。ただし、こうしたエスニック系の料理は、食べ過ぎて苦しくても、スパイスの薬効だろうか、次の日にあまり残らないのが救いだが。
 
  N蔵(えぬぞう):著述業。朝掘り筍の味と香りを待ちわびる偏屈野菜嫌い  
   
  N吉(えぬきち):編集者。病気を恐れず鶏も牛もガツガツの博愛主義者  
   
  N丸(えぬまる):団体職員。カテキンと万歩計で体調万全なんでもござれ