2004.6


連載第十一回は「ラム肉料理」
風俗街をかきわけて、くちくなるまで肉三昧。


カオロウ館
京都市下京区木屋町四条下ル
めにうとお値段
香草炭火焼、たたき、シシカバブ、骨付き肉炭焼き、シチュウ、カレーステーキ、ラムどんぶり、ラムカレー、サラダ、ビールにワインとまたも食べ過ぎにもかかわらず、ビバ!一人4000円。

 今回は、以前からM氏に勧められていたラム肉料理でした。待ちに待ったという感じで意気込んでいたのですが、その意気込みを十分に満足させてくれるおいしさでした。私はけっして肉ばかりを食べてもいませんし、魚の方がいいという気分の時もありますが、まあ、かなりの肉好きではあります。そのことを知った上でM氏は勧めてくれたのですが、たしかにこの店のラム料理はいずれも上品な味わいでした。完全にラムの虜です。
  どの料理も気に入りましたが、なかでもお勧めしたいのはラムカレーです。このカレーはジューシーです。臭みはまったくなく、柔らかく煮込んだ肉がルーに溶けこんでいて絶妙な味わいです。パリッとしたライスに良く合います。「シメ」にはぜひカレーを。このカレーは、昼にも食べられるようです。それも、1000円以下で。かなり気に入ったので、これから四条に出たときの昼ご飯はラムカレーにしようと思っています。
  さて、やはり文字通りの肉料理の話をしないといけません。今回、香草炭火焼、たたき、シシカバブ、骨付き肉炭焼きと食べましたが、正直言って優劣はつけられません。ワイルドな食感の骨付き肉やボリューム満点のシシカバブなど、肉自体のおいしさと味付けの巧みさによってそれぞれ手換え品換えでラムのおいしさを引き立てているからです。でもあえて一番をあげれば、香草炭火焼きでしょうか。最初に食べたせいもあるかもしれませんが、表面がわりとカリッとしていて、その歯ごたえの次に、すこしレアな柔らかさが続きます。そこでジュワっと肉汁が口にひろがるわけです。そして、その肉の味と黒胡椒のピリッとした味がうまくマッチしています。
  最後に、変わり種のラム丼もお勧めします。ただし、二回目以降のメニューにしてください。はじめてこの店を訪れる方は、やはり香草炭火焼あたりから入って頂くのがいいと思います。で、ラムのおいしさがすこしわかったところでラム丼を召し上がってください。そうすると、牛とも豚とも違うラムの奥深さを堪能することができると思います。
 いつの間にやら風俗店が多く立ち並ぶ、四条通先斗町下ル。呼び込みのお兄さん達をかきわけながらたどりついたのが、今回のカオロウ館、ラム肉専門のお店です。先斗町側と木屋町側両方に入り口があって、一瞬アヤシイお店かと見まがう、なんとも不思議なたたずまい。
  子羊の肉自体には、そんなに滋味があるようには感じませんでした。ですが、羊肉の癖というか、生臭さを上手にソースで生かしてて、豚でも牛でもない風味を感じる味わい深い料理ばかりであります。
  香草炭火焼もたたきも、香辛料や香り野菜で、臭みを感じさせない気配りがなされています。炭焼きやシチュウ、カレーステーキはラム肉の本領発揮!という品々です。もともとのソースもきっとおいしいのでしょうけど、それに肉の味を埋没させてしまわずに癖をうまくいかして、奥行きある味わいに昇華させてます。
  うん、こんな味、食べたことないよう。
  ラムどんぶりは、マスター曰く「ラム版他人丼」ということで、炒めた玉葱とラム肉を卵でとじた丼。何年も前から600円と格安据置き価格だそうです。丼モノの玉葱というのは実は切り幅が微妙で、甘味をよくだして出汁とからませるために薄切りにしているお店も多いのですが、ここんちは割合ボリュームのある切り加減です。ラムの味を殺さないようにあんまり甘味を出さず、そして臭みを消すためにやや太めに切ってるのかなーって思いました。
  店内はアットホームな雰囲気で、家族連れでも、お一人でも、ほっこり、のんびりできます。
  なお、お値段は安く上がりましたが、どう考えても今回も食べすぎです。しかも、肉ばっかりを。一般の方でしたら、ラムステーキとご飯くらいで、充分おなかいっぱいでしょう。
  ちなみにN吉は次の朝飯も食べられんくらい満腹持続でありました。
 いやー、今回は料理の「臭み」について考えさせられた。羊の肉って、独特の臭みが苦手と言う人が多い。でも最近は、子羊のラムは、その臭みがほとんどなくて美味しいのだよ、という主張も聞くようになった。で、確かにこのラム肉専門店の料理を食べると、そのとおりだなと思う。
  しかしである。やはり、微妙に臭みはあるのだ。で、その微妙さ加減が、このお店の料理の魅力なのだろうと思った。臭みを上手に演出しているのである。普通、料理の素材に臭みがある場合(魚などが典型)、さまざまな方法で臭みを消そうとする。けれど、この店の料理は、臭みをあえて消さずに微妙に出しながらそれを演出しようとしている。
  タタキ、ステーキ、丼、カレー。どれも牛肉料理が基本のものだが、牛肉に代えてラム肉にしてある。しかし、単なる代替ではない。臭みを消して牛肉に近づけようとしているのではない。ラム肉のわずかにある臭みを、牛肉では決して味わえない魅力として引き出すような工夫がなされているのである。そして、その工夫がとても上品な味を作り出していて、ほんとうに美味しいのである。
  この方法こそ、ラム肉という(食べなれない人には)癖のある食材を真に活かす、あるべき方法であろう。
  しかし、メニューはすべてラム肉料理である。食べ進むうちに、ちょっとこれは苦しくなってきたことも告白しておこう。野菜や鶏料理などのあっさりしたものも無性に欲しくなってくる。
  え、それは違いますか。確かに、この店はラム肉料理の専門店で、居酒屋ではないのである。周囲の客の食べ方を見ていても、料理1、2品でご飯を食べるというようなスタイルである。マスターごめんなさい。むさぼり食いの下品な客で。
  でも、そんな下品な客でも、あたたかく迎えてくれるアットホームなお店なのだ。そんな気どらない雰囲気も、この店のもう一つの魅力になっている。
 
  N蔵(えぬぞう):著述業。朝掘り筍の味と香りを待ちわびる偏屈野菜嫌い  
   
  N吉(えぬきち):編集者。病気を恐れず鶏も牛もガツガツの博愛主義者  
   
  N丸(えぬまる):団体職員。カテキンと万歩計で体調万全なんでもござれ