2004.11


連載第十五回は「鴨鍋」
白川のほとりで、あたたかなヒトトキ。


枡富
京都市東山区三条通白川橋西入ル大井手町
京都デジスタイル

めにうとお値段
鴨鍋に雑炊、ビールすこうしで、まあまあかなの一人4100円也。

  少し寒くなったからといって、すぐに鍋に走るのはあまりにも軽薄かとは思いましたが、今回は早速の鴨鍋です。「鍋の季節」という言葉は、やはり暖かいものを感じさせてくれます。
  もっとも、ここ桝富では年中鴨鍋が食べられますし(多分)、日常的に蕎麦屋さんなので、鴨なんばん蕎麦などは、昼ご飯に軽く食べるのにはふさわしいと思います。しかも美味しい。最近、手換え品換えで美味しい蕎麦を食べさせる店が増えてきましたが、ここは古典的な蕎麦屋です。ちなみに場所は、前回の糸仙同様ちょっとわかりにくいところですから、見落とさないように注意しないといけません。
  ということで鴨鍋ですが、鍋の基本と言ってもいいオーソドックスな鍋です。野菜と鴨、これでまずは楽しみます。野菜はともかく、ここの「売り」は鴨です。適度な堅さで、噛むほどに味わいが増してくるところは、さすが鴨という実力を感じさせます。この鴨のおいしさがなんと言っても桝富の魅力です。鴨は、火の通し加減によって、柔らかくもなりますが、柔らかくなっても持ち前の歯ごたえが残っているところが不思議です。この鴨の仕入れには、かなりこだわっているのではないでしょうか。要予約なのは、この鴨の仕入れとの関係です。今だから告白しますが、じつは以前ここで鴨鍋を食べたときに、あまりに鴨が美味しかったので、追加しようと思ったら鶏しかないと言われ、悲しい思いをしたという経験があります。
  ひとしきり鴨と野菜で満足すると、うどんと蕎麦を出してくれます。これももちろん鍋に入れるわけですが、もともとが蕎麦屋さんですし、うどんもおいしい店なので、この蕎麦とうどんがまたいけるわけです。今回は、最後に定番の雑炊まで食べました。だしがよく利いていて、とても美味しかった。もちろん満腹になりますが、それでも鍋の基本が3000円ちょっとで食べられるのですから、お手頃な店と言えるでしょう。
  最後の最後にミカンを1個ずつ出してくれます。デザート、などと気取っていなくて実にいい感じです。この気取らなさが、この店の一番の魅力かもしれません。
 ちょっと奥さん、このごろお野菜高いけど、どうしたはる?
  はい。そんな時こそのお鍋です。
  野菜高騰の折、お鍋を食べに行くというのはなかなかにお利巧な行いなのではと。とはいえ、主役は鴨。鴨鍋でございます。
  地下鉄が通って便利になった東山駅のすぐそばに、枡富は位置しています。美術館や平安神宮といった観光地に近いけれど、道幅が狭いせいかお昼はともかく夜ともなると、人気もまばらです。お店の前を何度か通ったことはあるけれど、入るのはN吉お初。
  一番奥の小上がり席は、3人座ればもういっぱいで、お話もはずみます。
  ところで、鴨南蛮と鴨鍋には、あまりよき印象をもっていませんでした。なんか、脂っこくありませぬか? お出汁の上に油の層ができてたりして、「これっぽっちのネギじゃ、鴨の脂は相殺されませんっ」なんて力んでしまいます。でも、ここんちのはそんなことありませんでした。
  (たぶん)合鴨なので臭みもないし、何よりやわらかい。やわらかいけど、歯ごたえはしっかりしています。白菜やきのこ類、生麩や湯葉なんかを次々飛び込ませながらもりもりいただいていると、蕎麦とうどんが出てまいりました。むむっ、これは蕎麦を先にいれるべきか、はたまたうどんか……。まさか、両方インってことはないだろうな……。ま、どっちでもいいか。
  細いつるつるしこしこ麺を、鴨の出汁がほどよくでたお鍋で、おいしくいただきました。
  調子にのって、別料金の雑炊もお願いするうまぺ連。おいしいお出汁の力を借りて、卵を入れて、しっとり雑炊できました。くるしーとか言いながらも、平らげます。
  21時半がラストオーダーですし、鴨鍋は二人以上三日前までに要予約なので小手間がかかりますが、もたれずあっさり大満足! お奨めでおます。
 蕎麦屋で食べる鴨鍋である。うどん屋が鍋を出す(うどんすき)のはわかるが、蕎麦屋が鍋を出すというのは珍しい?……というわけでもないのだ。聖護院にある河道屋養老(ここも雰囲気がよいのでよく食べに行く)などに代表されるように、蕎麦を最後に入れる趣向の「蕎麦屋の鍋」というのもけっこうある。出汁の出た鍋の汁につけて食べる蕎麦というのもけっこう美味しいものだ。
  で、ここ枡富の鍋は、鴨の肉を使うことで、さらに蕎麦屋らしい特徴を出している。そう、鴨南蛮そば(大好きです)で実証されるように、蕎麦と鴨は実によく合うのである。そして、枡富の鴨はとても美味しい。鴨というと硬いので敬遠する人が多いが、ここの鴨は柔らかい。いや、もしかして指示に従わなかったら硬くなったのかもしれない。鴨は、鍋に入れたらすぐに食べてくれと言われた。確かに、しゃぶしゃぶまではいかないが、ちょっと煮えたぐらいで食べる鴨は、とても柔らかいことを教わった。
  そんな気さくな(でも重要な)指示を出してくれるのは、この店がアットホームな経営の店だからである。そうか、考えてみると、このアットホームな雰囲気というのは、この「うまぺ」で紹介する店に通底する特徴といえるのかもしれない(例外もあるけど)。さらに言えば、店の場所と店の空間構成も、うまぺ店の最も典型的なものと言えそうだ。表通りに面してなく、路地をちょっと入ったわかりにくい立地。そして、店を入るとカウンターかテーブル席がちょっとあって、その奥にいわゆる小上がりの狭い座敷がある。そして、従業員がたいてい家族を中心にした人で構成されている。
  そんな店だからこそ、鍋を食べ終えた後に「お座敷さんデザートお願い」という指示のあとで、単なる「みかん」が運ばれてきたりする。ほほえましい。
  最近は美味しい蕎麦を食べさせる店が増えている。確かに蕎麦の味は奥が深い。しかし、この店は、そうした味の求道的な態度とは別な次元での美味しさというのがあることを教えてくれるのだ。
 
  N蔵(えぬぞう):著述業。ご馳走続きで脂肪を促成栽培の日々  
   
  N吉(えぬきち):編集者。貧血とゴキブリ襲来で心身細る日々  
   
  N丸(えぬまる):団体職員。週末起業を夢見て板前修行の日々