2005.3


連載第十七回は「焼肉」
あっさりウマ肉を、闇深き元花街にて食す。


江畑
京都市上京区下長者町通六軒町東入ル
http://gourmet.yahoo.co.jp/gourmet/restaurant/Kinki/Kyoto/guide/0302/M0026000880.html

めにうとお値段
ロース、タン、ハツ、ミノ、、テッチャン、バラ、天肉、特ロース、生レバー、スープ、ナムル、キムチ、ポテトサラダを一周以上、にビールそれなり、で一人9000円也。食べ杉!

 今回は、ひたすら肉にまみれてきました。酒池肉林とは、まさにあの日のわれわれを指す言葉だと思います。
  江畑は、もうかれこれ10年以上前に何度か行ったことがあるのですが、今回久しぶりに訪れてみて、客層がぐっとディープになったように感じました。この日だけだったのかもしれませんが、地元密着型のディープさを感じました。
  とはいえ、やはり肉はとても美味です。
  タンは、他店と違って厚みのある切り方です。普通だと、薄いために、すぐに火が通ってしまうというか、目を離していると火が通りすぎてしまうという恐れがあるので、その点でも安心ですが、それよりも、満々とした自信が感じられる切り方と言った方がいいかもしれません。タンの歯ごたえの良さが実感できます。まず、これがお勧めです。
  もちろんロースは定番ですが、ここではやはり特ロースでいくべきです。というか、さすがのわれわれも、その価格を見て最後まで口に出せなかった3000円からというサーロインがあるのですが、じつは、このサーロインを切ったものが特ロースだったということが、最後にわかりました。特ロースを頼むか、ゴージャスにサーロインを頼むかという判断はお任せしますが、やはりここは特ロースでしょう。なにしろ、まず、店の雰囲気がサーロインという響きに合わないというのが大きな要因です。壁から飛び出しているマイクに向かってお兄さんが「サーロイン一丁」と叫ぶ様子は、ちょっとした違和感ものです。やはり、脂がよく乗っていて、あまり味のきつくない特ロースを一枚ずつ焼きながら食べる方がいいと思います。天肉という、安めの肉も柔らかくて美味しかったです。財布を気にするときには、これがいいかもしれません。それから特筆しておかなければならないのは、おろしポン酢で食べる肉のおいしさです。これを食べると、ぎらぎらとしたテッチャンを濃厚なつけダレで食べるというのが蛮勇に感じられるほどです(もちろんテッチャンも食べましたが)。
  それから、箸休めには生レバーがお勧めです。ネギと芥子で食べる新鮮な生レバーは、苦手な向きもあるかもしれませんが、やはり肉食いの醍醐味のひとつです。もちろん、この新鮮さは、どこででも食べられるというわけではありません。
 碁盤の目状に道が走る京都市内にあって、大きな地図には載らない路地の多さは魅力でもあり、方向音痴を困らせる代物でもあります。とくに西陣地区の路地は、街中とは違って曲がりくねっているものも多く、初心者は迷うこと必至です。というわけで今回もうろうろ行きつ戻りつ、自転車のお母さんに道尋ねたりして、ようやく到着。
  こんな、暗闇にぽっかりな店、とてもじゃないけど一見さんじゃたどり着けませんっ!
  ずらっと続くカウンターは、親子連れ、カップルなどなど、お店の人と丁々発止な常連さんとおぼしき人たちで満員でした。
  更新の遅れがばれてしまいますが、この日はバレンタインデー。てっきり肉欲燃え盛るカップルで満員かと思いきや、平日なのにご家族遣いなどあり。なるほど、地域密着型店のようですね。
  さて、われら3Nも負けてはおられません。
  意外に少ない、壁にかかったお品書きを、右から順に読み上げてゆきます(実は裏メニューもあるみたい)。ロース、タン、ハツ、ミノ、なんだ、意外に及第点でございます。
  いや、うまいんすよ、うまいんだけど、そんなに感激するほどのコストパフォーマンスなんかどうかが、よくわからん。普段、肉をふんだんに食べていないから、比較スケールが貧弱なせいかも……貧乏かなし〜。
  とはいえ塩で食べさせる焼肉、というのは新味がありますしおいしく、ガンガン箸が進みます。ロースの霜降り加減も素敵、安いけどじわっと味わい深い天肉(ほっぺたの肉だそうです)も追加注文しちまいました。
  そうそう、先達K氏に推薦されてたスープ、これがうまかった。一瞬あっさりしてるのだけど、きっついくらいのコクが、あとから迫ってくるんです。うまー。これだけで、ご飯、何倍も食べられそ。一部で人気の高いらしいポテトサラダは粘度と味付けの濃さがN吉好みではなかったんですが、このスープはお勧めします!
  問題は、店を出ると真っ暗ってことです。土地に明るくないもんだから次のお店も見つからず……。おとなしくおうちへ帰れ、ってことですかね。
 焼肉の人気は不滅です。子供も大人も大好きです。いまや、焼肉屋は、日本人の食文化にはかかせないものとなりました、って言うじゃな〜い。でもアンタ、日本の焼肉は、タレの味でだまされているだけですから!。残念。
と、昔から思ってきた。にんにくベースの焼肉のタレは、日本でひとつの文化を作り上げた、と言ってもよいぐらい、さまざまなバリエーションも生みながら洗練を続けてきた。市販品でさえ、とても美味しいものが多い。でも、焼肉屋で「美味しい」と思うのも、実はよく考えると、このタレの味にその本質があることが多い。
  ところが、この店でのっけから店員はこう言った。「塩で食べますか。うちの肉は塩のほうが美味しいですよ」。うーん、これは虚をつかれた。タレの味がない焼肉屋なんて。これはもちろん、肉そのものの質に自信があるからこそである。実際に、塩で食べても十分に美味しい。
  そしてもうひとつ重要なことは、ロースのような高い肉だけでなく、安い肉も、同じように美味しいことだ。焼肉は、基本的に何も加工せず肉を焼いて食べるのだから、その質は肉そのものに依存する。高い値段の肉ほど、原則としては、美味しいものとなる。極端に言えば、金さえ出せば、どこで食べようとタレは不要となるのかもしれない。でも、この店は、安い肉でも塩だけで食べられる(実際はけっこうタレで食べてしまいましたが)。もちろん、ロースとは違う味だが、それなりの肉本来の美味しさが味わえる。ここがこの店の最大の魅力である。そして、その魅力は、元花街のうらさびれた独特の雰囲気にこそ支えられているとも言えそうだ。
  店員は、アルバイト風でありながら、店や商品の知識が豊富でアドバイスも適格だ。店全体で、下町の焼肉屋というコンセプトを作り出している。そう、タレにだまされない本来の焼肉屋とは、こういうもののはずなのだ。
ちなみに、タレをあまり使わずに食べたためだろう。たらふく肉を食ったにもかかわらず、翌日に胃がもたれることがなかったことも報告しておこう。
 
  N蔵(えぬぞう):著述業。煩多な俗務にビバ整体  
   
  N吉(えぬきち):編集者。雑務に没頭で蕁麻疹再発  
   
  N丸(えぬまる):団体職員。面倒激務にもTV欠かさじ