2005.4


連載第十八回は「定食屋?」
花冷えに負けぬ、ボリュームメニュー


十両
京都市左京区東大路丸太町西入ル上ル

めにうとお値段
よこわとはまちのお造り、ぐじの唐揚、京白味噌鍋(ミズナ、かき、海老、生麩、豆腐、ゆば、紫芋、金時人参、白菜)、出汁巻き、おぼろ豆腐、小豆ご飯、つけもの、蛤とミズナの吸い物にビール少なめ、で最安値更新、一人2700円!

 今回は、旨い定食屋があるということで、十両に行ってきました。熊野神社の裏、京大にも近く、たしかに定食屋がありそうな一帯ではあります。しかし、大銀(註1)のような定食屋に比べると、だいぶ趣が異なっています。一言で言えば、こだわりの定食屋ということになるでしょうか。店の人は親切です。まあ、多少押しつけがましいところもありますが。
  よこわは、自慢するだけのことはあり一切れがかなりのボリュームで、活きは良かったです。われわれは、はまちと盛り合わせてもらいましたが、あまりの量の多さに多少単調な感じがしてきてしまい、途中から若干もてあまし気味でした。このあたりは伏見(註2)の定食屋版という感じもします。つまり、仕入れにこだわって、その時その時に旨い魚をふんだんに食べてもらうというコンセプトです。繊細さとか、あるいは、上品さというのとはちょっと違います。盛り合わせ的にいろいろと食べたい人には、物足りなさもあるかもしれません。
  珍しい料理で、美味しかったのがぐじの唐揚げです。これもまた大きいのですが、肉はあくまでもやわらかく、それにパリッとした骨が絡みます。大根おろしとネギで食べるのですが、魚好きの私としては、これが一番お勧めです。
  なお、私は、うまぺの前日の昼、抜け駆けをして下見がてら昼食を食べに行きました。よこわの刺身定食が1500円ほどなので、やはり昼ご飯にはすこし贅沢かもしれませんが、夜と同様に美味しく大きなよこわに吸い物とご飯がついていますから、まあいいのかもしれません。ご飯は、白大豆の炊き込みご飯でした。ヘルシーと強調されましたが、豆が苦手な私としてはやはり白ご飯のほうがよかった。もうすこしすると(この原稿がアップされる頃には)、タケノコご飯が出るそうです。そして、白大豆にしてもタケノコにしても、量に限りがあるので、なくなったら必然的に白ご飯になるそうです。要するに十両は、素材にとてもこだわる定食屋と言えると思います。そして、考え方にもよりますが、夜の方がお得感があるかもしれません。

註1 北白川にある古典的定食屋。500円くらいで十分に食事ができる。メニュウが豊富。
註2 魚が安くて旨い。しかも大きい。でも、おばちゃんの話術に乗せられると高くつく。

 京都のご飯は、おいしいんだけれどもちょびっとずつ食べさせて高い!とゆイメージがございます。今回は、そんな思いこみを暴風にて吹き飛ばすお店に行ってまいりました。
  京大病院のそば、土地柄常連さんが多いんだろなーって定食屋さんです。卓上のメニューのほかに、黒板に書かれたオススメの中から選びます。
夕食につき、アラカルトでオーダー。
  よこわのお刺身、うんまあ、京都で食べるにしてはおいしいお魚かな。養殖かなあ、ちと脂濃いよな気がしました。
  ぐじの唐揚げ、豪快です。カレイの唐揚げみたいに骨までばりばりは食べられませんでしたが、さっくり揚がってて、おいしゅございました。
  出汁巻きは、大きい! 脇役メニューがこんなに大きくて、いいのでしょうか。ほのかにお出汁の味、そしてふんわり食感。なんとも幸せにさせてくれる一品です。
  気に入ったのが味噌鍋。味噌ってのは、コクを出す調味料で、油気が濃い食材に合う調理方法だと思っております。石狩鍋なんて、その最右翼。でも、ここんちのお鍋は白味噌。ちょっぴり甘いし、踏ん張りがきかんのでは?なんて杞憂を吹き飛ばし、海老や牡蠣なんかから出るエキスを活かしつつ、たっぷりなお野菜のお味を引き立ててます。まったりほっこりうまいです〜。
  それにしても、白味噌鍋はN吉初体験。京都人には通常おかずなのでしょか?
ご存じの方、教えてくださいませ。
  N蔵記事にもありますが、どうやらランチもうまそです。いっぺん試さな。
  一品の量が多いため、N丸記事にありますように残念ながら、あんまり「京都のお気取りご飯」って気分は堪能できません。女性一人客には、多すぎるかもしれません。加えて、またもやご家族経営店だし、あけっぴろげな雰囲気で、デートにはむかへんと思います。まあそれこそがここんちの魅力でもあるので、数名でわいわいと食べに来るのが楽しいんじゃないかな。
 この店は私の普段使いのお店でよく利用する。「うまぺ」で食べに行った後も何度か行ったのだけど、その時に店の人が「ね、この料理を小さな皿に分けて畏まって出すと懐石料理になるんよ」と言っていた。なるほど、そんな感じだ。つまり、普通の定食屋なのに、びっくりするような洗練した味の料理を出すのである。
  例えば、名物になっているみそ(白味噌)鍋のスープの味。名古屋の八丁味噌とは対極の、ほんとうに上品で薄味で、だけどとろけるような味わいだ。京野菜の炊き合わせも気品のある味だ。おぼろ豆腐も絶品。つまり、出てくる料理ひとつひとつは、けっして著名な京料理の店にもひけをとらない高い質を確保しているのだ。
  でも、その量が半端ではない。鍋には具がてんこ盛りで出てくるし、魚はみな巨大なやつが一匹まるまる出てくる。おぼろ豆腐だって、でかい容器にどっさり入ってくる。この辺は、いかにも下町の定食屋だ。
  気取った懐石料理を食べるときには、いつも、確かに美味しいけど、こんな上品な演出なんかしないで、この美味しさを正味で食べてみたい、と思っていた。こんなちょっぴりではなくて、どーんと盛って食べてみたいとか。そんな夢をかなえてくれる店に出会ったということなのだろう。
  だけど、ちょっと充実感が足りない。なぜだろう。鍋も豆腐も京野菜も、最初は絶品に思うけど、正直、だんだん飽きてくる。そうか、懐石料理の、あのちょっぴり加減というのは、それなりに意味があるのだな、と改めて思い知らされるのだ。その最たるものが出し巻きだ。こんな美味しい出し巻きは初めて、というぐらい美味しい。特に変わった味ではないのだけど、出汁の具合が絶妙である。だけど、あまりにも巨大で、これはテーブルに並んだ最初から、見た目だけで言うとちょっとげんなりした。
  どこにでもある、いたって普通の定食屋に見えるが、美味しさの受容のスタイル、という意味においては、実はきわめて独創的な店なのだと思う。そのためだろう、客層も特別な層に固定化されることは決してない。老夫婦、ファミリー、若いカップルとなんでも来いの状況である。
 
  N蔵(えぬぞう):著述業。煩多な俗務にビバ整体  
   
  N吉(えぬきち):編集者。雑務に没頭で蕁麻疹再発  
   
  N丸(えぬまる):団体職員。面倒激務にもTV欠かさじ