2005.11

連載第22回は「トラットリア?」
文教地区のこなれた店で、名月に乾杯。


ブズン
京都市左京区北白川山田町4-1 
tel)075-706-8922

めにうとお値段
半熟卵とジャガイモのサラダ、地鶏白肝のパテ、うさぎのラグーソースのパスタ、厚切りベーコンと鷹峯唐辛子のピッツァ、子羊のロースト、デザートにソルベマンゴ、パンナコッタ、ショコラアイス、ビールにワインフルボトルで一人5000円也。

 今回は京都造形芸術大学の近くにあるイタリアンです。結構な評判と言うことで乗り込んでみました。
  まず食べたのが「本日のおすすめ」であった地鶏の白肝パテ。約一名が仕事のため急遽遅れるという連絡があったので、まあビールでも呑みながら待っていようかと思い、そのときに軽い気持ちで頼んだのですが、これが絶品でした。今回の私のレポートのなかでは一押しです。舌のうえで味を楽しむことのできる食感は、どちらかというとビールではなくワインに向いていると思いますが、甘味と苦味が微妙にあわさった味は、大人のテイストです。パンに乗せてパリパリ感と一緒に楽しんでもいいのですが、どちらかというとパテそのものを舌で味わうことをお勧めします。ただ「本日のおすすめ」とあったので、これはいつ行っても食べられるものではないのかもしれません。もしもあったら、ぜひワインと一緒に注文してください。
  半熟卵とジャガイモのサラダは、野菜嫌いな人にも食べられますし、サラダとはいえ、これもワイン向きの味になっていました。このサラダもそうですし、今回はパスタもピッツァも取り分けをしたのですが、そうするとどうしても、好き嫌いがある人が遠慮したり、遠慮させたりで気を遣うのですが、今回は(というか今回も)皆様のご協力のもと、楽しく食べ分けました。で、肝心のパスタとピッツァですが、軍配はパスタにあがりました。べつに鷹峯唐辛子がはいっていたからというわけではないのですが、ピッツァの味は、ある程度のレベルまで行ったら、だいたいそこまでという感じがしてしまいます。一方のパスタは、ソースの味やゆで加減で、味の上下にかなりの幅があるように思います。今回のウサギのラグーソースも、やはりソースの味がパスタとうまく絡んでいました。ウサギらしい味なのか、そのあたりはよくわからないのですが、肉味がほどよく出ていたと思います。
  今回は肉の話題があまりないのですが、もちろん子羊のローストが美味しかったことも申し添えておきます。
 よんどころない事情で大幅に遅刻してしまいました。そんな訳で余裕なく挑んだもので、場と味を楽しめるかしらん、と心配だったのでありますが、大満足したことをまずは記しておきます。
  さてさて。初めて出かけたお店で、そこんちの第一印象を大きく左右するもの。それは、自分以外のお客さんだと思います。インテリアや店員さんのサービスがまずその「場所」を提供し、そこに客が自分たちのもつさまざまな色を混ぜ込んで、「今夜、このお店で」という「場」がつくられてゆく。そしてそんな夜が重ねられることによって、お店の「色」ができてゆくんじゃないかなーとぼんやり考えています。ここんちは、ちびっこ連れた夫婦あり、カップルありと、これまでのうまぺ店からすると客層が若いな、と感じましたが、どのお客さんもこなれた感じで、居心地よき店に違いないという印象をもちました。
  まずはサラダをいただく。半熟卵をつぶし崩しながら食べる、というのは最近のカフェ飯でよく遭遇するスタイルですな。それにしても、普段は一巡目オーダーでサラダなんて絶対に頼まないうまぺ連(一度に大量オーダーする場合はイロドリとして注文することあり)なのに、N吉登場までのつなぎのために頼んであるのだろう、と改めて申し訳なく……。
  続いての白肝パテ、お口でとろけます! 臭みを消すために味付けが濃い目だったり、後に残る油脂分が気になったりすることもあるパテですが、ここんちのはふんわりしててまろやかで、まさに昇天〜です。おいじい。もっと色々前菜を楽しみたかったのですが、おなかいっぱいになっては困るので、パスタ系に進む。
  ラグーソースは野菜の味が上手に折り込まれてて、重くないやさしい口当たり。ピッツァはある意味傍若無人な具であることを危惧しましたが、きちんと個々のキャラは立ちつつ、全体の味のバランスもよい。そう、ここんちは全体的に味付けのバランス感覚がよいのだと思います。だからかな、デザートにもう一押し個性が欲しかった気もします。その一点だけが気になりました。
  繁華街にあるようなお店とは違って席もゆったり配置されてて、くつろぎながらお食事を楽しむことができます。ただし場所柄学生さんが多そうなので、ランチはちょっと混んでるかも、です。
 「気さくな店」というのを作るのは、すごく難しいことなんだろうなと思う。単純に店の緊張感を取り払うだけではだめだ。緊張感がなさすぎると、いごこちがよすぎて(?)、常連客だけに占拠されて、逆に入りにくい店になってしまう危険性が高い。
  ブズンは、高級店というわけではないが、それでもそこそこの値段はするイタ飯屋である。なのに、とても「気さくな店」になっている。緊張感を維持しながら、とてもくつろげる。子供をつれた家族連れや、おばあちゃん同士の客なんかも多い。
  こうした心地よい「気さく」な感じは、子供たちの表情を見ているとよくわかる。普通、レストランなどで、子供連れの客に出会うと「あー、最悪」と思ってしまう。やかましいし、へたをすればその辺を走り回る。でも、この店の客になっているガキどもはおとなしい。「筋」のいい客の子供だから、というわけでもない。ちゃんとお店が「大人のお店」を主張していて、子供でも、その雰囲気を感じるからなのだろう。でも、おとなしくしていても、彼らは決して畏まっているわけではない。
  北白川という立地のよさ、ビルの1階でガラス張りという空間の気持ちよさ、椅子やテーブルの「ゆるい」並べ方。いろいろ理由は考えられるが、この「気さくな」感じを支えている最も重要な要素は、やはり「味」なのだろうと思う。
  地鶏白肝のパテは、特に美味しかったが、その美味しさの本質は、やさしさだ。肝の臭みがほどよく消されているのだが、そのほどよさが目指しているのが、食感のやさしさなのだ。パスタとピッツァも、素材の名前を聞くとヘビーな感じだが、けっして「難しい」味にはなっていない。誰もが、口に入れたとたんに「美味しい」と思わせるやさしい味が実現している。これなら、子供でも理解できる味だろう。
  もちろん、幼稚な味というのではない。単純な素材から複雑な味を引き出すのが難しいように、珍しい素材や組み合わせから、逆に素朴な味わいを引き出すのも難しいはずだ。ブズンは、その難しさに挑んだことによる深さが味に隠されている。だから、ガキどもでも理解し、その上で堪能までしちゃうんだろうと思う(ほんとうかな)。まあ、いずれにしても、子供も入れる「大人店」として評価したいのである。
 
  N蔵(えぬぞう):新鮮シーフードにがっつりin USA  
   
  N吉(えぬきち):編集者。朝食ボリュームにおくびin Hawaii  
   
  N丸(えぬまる):団体職員。コーン茶にほっこりin KOREA