2006.6

連載第24回は「焼鳥」
いよいよ最終回!うまぺ発祥の地で和む。


「?」(←名前のないお店です)
●左京区東大路丸太町西入
tel)不明

めにうとお値段
鶏、砂ズリ、軟骨、鶏ハツ、ミノ、レバー、椎茸、青トウ、アスパラ、烏賊などなどにビールにワインで一人4000円也。

 今回は、少なくともわれわれの間では、満を持して登場の店です。
  京都には一見さんお断りの店が多いわけですが、この店は一見さんの方からお断りをするような、そんな店です。なにしろ、店という概念では括ることのできない「店」です。といって、屋台でもないし。実際に、客のほとんどは常連です。
  ここは焼鳥屋です。数年前にとある人に連れてきてもらってから、やみつきになっています。というか、しばらく食べないと禁断症状になります。それほどに美味しい店です。とにかく鶏の美味しさが独特です。肉は締まっているけれども堅くなく、ジューシーです。ここのトリは、間にネギのようなややこしいモノは入っていません。鶏だけです。そして、ここでトリを食べると、他のチェーン店系居酒屋の焼き鳥は別物としか思えません。
  この店はトリだけはふんだんにあるようですが、他のメニュー、たとえば、ハツやトリハツ、レバーなどは、数に限りがあります。7時半ごろに行くと、もうすでにいくつかの札は裏返って白くなっています。つまり、ネタがなくなると、その札を裏返すわけです。そして、自分の注文で札を裏返すというのも、この店のひとつの楽しみ方です。そろそろかなと思って注文して、札が裏返ったときの快感に浸りたい方には、6時頃には店に入り、カウンターに座ることを勧めます。
  さて、いよいよGSについて語るときが来ました。しかし、GSが何であるかについては、あえてここでは書きません。他のお二人が書くかも知れませんし、秘したままうまぺを終えることになるかも知れません。そういう秘密がひとつくらいはあってもいいんじゃないかと思います。でも、GSと口にするときの胸の奥がキュンと来るような感覚は、それだけでよだれものです。トリのGSとイカのGSが双璧です。トリハツのGSが次点で、これも毎回食べます。しかし、やはりトリのGSです。ノーマルで腹六分ぐらいにしておいて、後半一気にGSです。ただし、間違ってもレバーのGSなんて言って
はいけません。お里が知れます。皮のGSもまた論外だと思います。そして、シメはやっぱりトリのGSです。気持ちに余裕のあるときは、GだけとかSだけという楽しみ方もあります。
  N丸ブランドのワインもお勧めですが、私はもっぱらビールです。
 うまぺは全部で24回、最終回はこのお店、と当初から決めておりました。熊野神社近くの名前のない焼鳥屋さんです。
 「禁断症状がー」とのたうつN蔵N丸と空串を重ねながら、月刊うまぺの構想は固まっていきました。大事なお店だから、大事に紹介しないと。
 幼少より鶏皮の串を毎日食べるほど大好物のN吉、でもそれはおやつだし、大人になってからは、焼鳥は酒の肴だ、と思っていました。
 でも、ここんちのは、違う。
 鶏も軟骨もハツも、そこそこ大きいのが串にびっしり鈴なりです。
 塩かタレか、自らのコンディションによって仕上げを選んで、がぶりと食いつく。
 軟骨の軽やかさ、砂肝の噛み応え、青トウのしゃっきり加減。どれも異なる歯ごたえで、それを楽しむ間もなく、素材の味が口中に広がる……。ともかくどれもがジューシーなのです。
 これはもう、まったく主役の主食です。
  同じ鶏でも部位が異なり味が異なるので、仕上げを代えて種々試すうちに、お腹も膨らんでくる。生キャベツでインターバルを入れながら、そこでオーダーしたくなるのがGS<じーえす>。
 カレー粉とニンニクのトッピングです。ニンニクは具に吸い込まれ、カレー粉は具にバリアをつくって旨味を逃がしません。
 鼻をくすぐるカレー粉の香り、かぶりつけばカレーの下に隠れるいっそう奔放な素材のみずみずしさ。しあわせ〜です。
 きびきびだなご家族経営で、リズミカルな手元を拝見しながら気持ちよ く時を過ごすことができます。
 あ、でも、ご家族連れやココイチデートには使わないでください。
 おいしーものを楽しく飲みながら食べられるお仲間と、ぜひ。
 ニンニクのおいしさって酸味にあるんですね。ということを教えてくれたくし焼屋である。
  鶏を中心に、串刺しにしたいろいろな肉や野菜を目の前で炭で焼いてくれる店だ。ネタそのものの質の高さ(特に鶏は特筆もの)、とんでもない店の狭さ(ちょっとふつうでは考えられない)など、この店の魅力(?)はいろいろある。しかし、私を夢中にさせたのは、GとSの味である。Gがカレー味、Sがニンニク味で、メニューにはないが、オプションで頼むと、それぞれの味を足してくれる。これがものすごくうまい。特にGとSの両方を足した「GS」は最高である。
  なぜこんなにもうまくなるのか。日本の大衆的な焼き物のたれは、基本的に醤油とみりんをベースにしたものだ。酸味がどうしても欠ける傾向にある。そこにニンニクを加えると、確実に酸味が加わる。いや、ニンニクだけではだめなのだ。ニンニクの特有の臭みが勝ってしまって酸味がうまく伝わらない。そこで、カレーのより強い味を加えることで、ニンニクの酸味が立ってくる。
  まあ、理論的にはそのように考えられるのだが、自宅でそれを再現しようとしてもなかなかうまくいかない。実は、この店のくし焼があまりにもおいしいので、自宅で焼き鳥用七輪を買って炭焼きを実践するようになった。確かに、上質の鶏肉を確保できれば、おいしい焼き鳥はできる。しかし、GSは理論的にはいかない。何かが足りないのだ。店の主人に正直に言ったところ、鼻で笑われた。十年早い、ということなのだろう。
  あ、でも秘伝とか伝統の技というような印象は、この店には一切無い。なんせ、店構えのような概念がない。駐車場にへばりつくように営業していて、店の名前もないのだ。でも、この特別な味を求めて、いつも店は満員である。
 
  N蔵(えぬぞう):著述業。頑固なこりにビシビシ針治療  
   
  N吉(えぬきち):編集者。腹の皺出現にアセアセ腹筋  
   
  N丸(えぬまる):団体職員。半身浴でにこにこダイエット  
 
     

長らくお楽しみいただきました「月刊うまぺ」ですが、ひとまず終了させていただきます。
楽しいメールや思わぬリンクなどいただき、ありがとうございました。

通常営業が終わるとはいえ、やはりウマもの好きの血が枯れようはずはありません。
折々「増刊うまぺ」として、気になるお店へは足を運ぼうと思っておりますので、情報・応援などどうぞ宜しくお願い申し上げます。