2007.8

不定期連載化第27回は「イタリアン」
繁華街激近ミセで、ワインもオーダーも進む進む。


トラットリアニーノ
京都市中京区河原町三条上ル tel) 075-211-3373

 
めにうとお値段
生ハム、白金豚と近江地鶏の白肝テリーヌ、スルメイカと白いんげんのインツィミーノ、マグロのからすみシチリア風、子羊のラグー手打ちパスタ、白金豚のロースト、焼きなすのピューレ、サラミ、タリアテッレ、うなぎのバルサミコソース、パン、塩のジェラード、パンナコッタ、エスプレッソにワイン2本で一人11000円!


 この店もまた、うまぺにしばしば登場する町家改造系の店のひとつです。最近人気も高まっているという評判の店で、たしかに店員の対応など全体的な雰囲気は好感がもてます。店のつくりには多少あざとさが感じられますが。
  さてこの店の味の特徴は、きわめてはっきりとした味付けをしているということだと、以前訪れたときに感じましたし、今回も食事半ばまではそう思っていました。
  花巻産の白金豚という近頃評判のネタと近江地鶏の白肝とを合わせたテリーヌは、この店一番のお勧めかもしれません。アルコールを飲まない人には多少きつめの味かも知れませんが、濃厚でありかつまろやかな風合いです。前菜があまりに濃厚では、と思われる筋もあるかと思いますが、けっしてしつこい味ではなく、上品なので大丈夫です。そして、あわせて注文すべき生ハムもまた塩味のしっかりと利いたはっきりとした味です。そういう点で、やはり若向きな味を狙っているのかもしれません。このような味の傾向は、パスタにも通じるものがあります。ただし、パスタになると、多少味が勝ちすぎているかなとも感じながら食べていました。 
  ところが、今回メインで食べた白金豚(またかと言うなかれ)のローストは、どうも勝手が違いました。これといいう味がしないのです。肉の味を楽しむということで味付けを控えたとすれば、肉そのものの問題なのかもしれませんが、厚切りで魅力的な見かけにもかかわらず、このローストはいまひとつ平凡な、というかもっさりとした食感でした。何かの間違いでは、という拍子抜けをした感じでもありました。以前テキサスで食べた味気のない、でも厚切りの肉を思い出したほどです。もっともソイソースをかけないとどうしても食べきれないようなアメリカ肉と比べるのは失礼というものでしょうが。ただ、この不思議なハズレ感も、思えば前半の濃厚でメリハリの利いた味のせいなのだと思います。メインの肉に向けての高まる気持ちがちょっと肩すかしを食らったということだと思います。メインを魚にしてみるというのが次の課題です。とはいえ、美味しいワインを呑みながら楽しく過ごすにはうってつけの店だとは思います。

 うまぺは値段が高い!肉店が多い!って声を聞くここんとこ。ほんとソノ通りで、間口を狭くしてしまってることを申し訳なく思いつつ……でも言わせてください。我々は単にタベスギな模様です。
  本日も、一巡目通常オーダーではなんだかもの足りず、二巡目に入ってしまったのでありました。だって、旨かったから。
  繁華街間際の立地ながら、トイメンが教会なので静かな通り。雑踏からひょい、と店に飛び込めるのがいいですな。
  喉を潤しながら、まずは生ハムとテリーヌを。ハムは塩加減がよいですが、もすこし甘めのフルーツと食べたい。テリーヌは、レバーがうっまー。舌の上でねっとりととろけます。脂が勝ち気だけど味はあっさりな豚と、それぞれ個性際立ってるなあ。夏の日の夕暮れ、ワインとおつまみ、会話の回転数も上がってくるっつーもんです。
  インツィミーノって、イカの煮込み料理のことらしいです。イカから出たスープが、塩味はっきり、シンプルな存在感を発揮します。もちょっと肉厚イカが好みなんすが、そればっかりは贅沢ってもんすね。
  子羊のラグーは、まったり感ありつつ、よくパスタともからんでました。おなか膨れてきてもまだ手が伸びてしまう。白金豚のローストは脂控えめさっぱりで、メタボ腹でも躊躇なく食いつけます。
  どのお料理も、塩気の立った、直球勝負な感じ。繊細な食材同志の調和よりも、「この素材を味わって!」なシンプル味付けが多いように思いました。難点を言えば、もちょっと色んな食感を楽しみたかった、ってそれはオーダーの未熟ってもんかもしれませぬ。
  女子をくどくにはデザートがちと弱い気がしますので、河岸を替えてってのがえーかもしれません。はっ!という意味では、これは正しくデート店なのかも!
  ここんとこ大人気らしーんで、予約は必須につき健闘を祈る。

 うーむ、こんな人気店を、ここで紹介してよいのでしょうか。といっても、人気店になったのは、つい最近のような気がします。それは、ほうんとうのイタリア料理を、京都の人も理解するようになったから、ということではないのでしょうか。
  この店の料理はすべからず塩辛い。イタリア料理の美味しいお店というのは他にもいろいろある。別に日本で食べるのだから、日本人が美味しいと思えば、イタリア料理だろうが何だろうが、それが美味しい店ということになるはずだ。でも、この店の塩辛さは、そうした美味しさの評価を超えて楽しめるものだ。
  イタリアならバール、スペインならバル。とにかく一日中、いろんな使い方で、食べたり飲んだりできる店。南欧を旅すると、その存在がどれだけ重要なもので、楽しいものかがわかる。そこは、決して落ち着いた場所とは言えない。入れ替わり立ち替わり客が訪れる。だから食べ物は、じっくり味わうというよりも、サッとつまめるものがよい。そのために味付けは、濃い方が好まれる(もともと本場のイタリア料理は塩辛いということもあるのですけどね)。
  この店の塩辛さは、そんなバールの雰囲気を彷彿とさせるものなのだ。あ、もちろん、塩辛いだけではないですよ。私が一番気に入った白肝テリーヌなんか、臭みを巧妙に抜いていながら、濃厚な味に仕上げていて、そうとうな技量とお見受けします。しかし、それも含めて、全体に味が濃いし塩辛い。そして、それがとても美味しいと思えてしまうのだ。
  バールのような雰囲気は、店のインテリアデザインにも依っていると思われる。古い木造の建物をかなり改装しているのだが、ほとんど何も手を加えずに使っているように見えてしまう。改修設計は、なかなかのセンスです。その、日常がにじみ出るような雰囲気が、とても気さくな雰囲気を演出している。あ、でも基本は、バールではなくちゃんとしたレストランですからね。ぜひとも、腰を据えて味を堪能してほしいです。
 
  N蔵(えぬぞう):著述業。人間ドックで地獄の絶食通知  
   
  N吉(えぬきち):編集者。貧乏夕餉にジャンク菓子食べ比べ  
   
  N丸(えぬまる):団体職員。帰省のツレは毎回焼き鯖寿司