京都の老舗の数珠屋さん 中野伊助

 数珠つなぎコラム

「水晶について」その3

 拝啓、青草を蒸すような強い陽射しの中、貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。さて早速ですが前回の続きを…  前回私は工業技術の発達とともに水晶に問題が生まれて来たと書かせていただきました。それはいったい何かと申せば人工結晶のせいなのです。人工結晶について説明させていただく前にもう少し石英(水晶)について書かせていただきます。石英というのは総称名でその中に水晶・紫水晶・紅水晶・煙水晶・黄水晶などが含まれ、化学成分は二酸化珪(けい)素です。これは独立した結晶として、又、上記のように非常に種類豊富な形・模様・色を持つ塊として産出されます。そして巨大な結晶に成長することもあり、水晶の最大記録は、長さ約六m、重さ約四十八トン以上もあったそうです。石英は、彫刻やカッティングに最適の結晶でもありますし又、後程書かせていただきます玉髄(カルセドニー・瑪瑙・クリソプレイズ等)や碧玉(ジャスパー)も石英の一種です。そして石英は主に花崗岩の主成分鉱物ですが、建築物やガラス、セラミック製品など広範囲にわたって利用されているそうです。
 さてさて科学者達は一世紀以上にわたって、地球の地殻から採掘された結晶と同じ物を作ろうとして来ました。天然の結晶は不純物を含んでいたり傷があったりすることが少なくないですが、しかし人工の結晶なら傷ひとつ無い物が出来ますし、必要に応じて指定の形、大きさに成長させることも可能でしょう。最近では、各種の人工結晶が科学技術の分野で重大な役割を果たすようになり、今日ほとんどすべての電子工学や光学装置に利用されています。完全な結晶の大量需要により、人工結晶の製造は加速する一方で、電子工学の将来は、結晶製造技術の発展にかかっているといっても過言ではないでしょう。そして現在、コンピュータ・通信・医学といったさまざまな分野で活用されており、たとえば合成ルビーの結晶はレーザーに利用され、身近なところではICカードにも利用されています。ICカードの中のシリコンチップがそうです。シリコンチップは、純粋な珪素の人工結晶から切り取った非常に薄い片(ウエハ)で出来ています。純粋の珪素(シリコン)は天然には産出されないので人工的に結晶化されます。純度の高い珪素を作るためには、石英の砂を容器の中でコークスと一緒に熱し、次に核となる結晶を回転する棒の先に取り付け、溶解物の中に浸し、それをゆっくりと取り出しながら結晶を引き出すそうです。
 少し専門的な話になってしまいましたが、しかしこれで頭の回転の早い貴殿のことならお分かりでしょう。嗚呼、紙面がなくなってしまいました。又、次回…。かしこ

(こちょうのおきな・珠数師)
平成11年7月掲載 宗教工芸新聞より抜粋