京都の老舗の数珠屋さん 中野伊助

 数珠つなぎコラム

「水晶について」その4

 拝啓、残暑なお厳しい折から、貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
 さて、早速ですが私は前回、前々回二度にわたって水晶(石英)の専門的な分野での取り扱われかたについて説明させていただきました。少ししつこいぐらいに書かせていただきましたが、しかしこれで頭の回転の早い貴殿にはご理解いただけたかなと思っております。つまり、科学技術の発達と共に出来上がって来た人工水晶(人工結晶)があまりに大量生産されすぎて、市場価格が値崩れを起こしてしまった結果なのです。
 鉱山から切り出される天然水晶と工場内で作られる傷・くもり一つとしてない人工水晶の違いは以前書かせていただいたように見分けは付きません。同じ二酸化珪素の結晶体である以上、分子構造上なんら違いはありません。
 他に違いのわからない物の例を挙げるなら天然の魚と養殖の魚を想像して見てください。たとえば鯛なんてどうでしょうか。両方とも同じ鯛です。どうですか見分けが付きましょうや?専門家なら体のラインが、あるいは頭の形がなどの違いを指摘できるでしょうが素人目には分かりかねます。食べてみれば味が違うとおっしゃるかもしれませんがこれは魚(食品)だからこそいえると思います。しかし水晶はどうでしょう。しかも我々の前に来たときにはもう既に丸く加工されてしまっています。もしかしたら食べてみれば味が違うかもしれませんが、残念ながら今まで試された方はおられないようですし私も試してみる勇気は御座いません。よろしければ貴殿が一度試されてみてはいかがでしょうか!?
 まあ冗談はさて置き、見分ける方法がこれについては御座いませんが、水晶とガラスの違いは出来ます。しかしこれは企業秘密というものかもしれませんので私も退職した身、いつかお会いしたときに申し上げましょう。というのも文章で書き表しにくいので目の前でご説明させていただきます。あるいは以前にお勤めさせていただいていた「お珠数屋さん」に御聞きになれば教えていただけるかもしれませんが、いずれにせよこのような無秩序の中に誤魔化しの製品まで紛れ込んでいるわけですから、あまりに混沌としているわけです。
 さあ小売店さんはこれからどうされるのでしょうか?この空前絶後の不況下で生き残り合戦が吹き荒れているようですが、やはり生き残るのは「本物を扱う店」でしょう。昔から値段相応という言葉がありますが、やはり(価格が)安い物は(品質も)安物と相場が決まっております。あまりにもかけ離れた価格品は?マークが付くのではないでしょうか!………  これで水晶については一応終わらせていただきます。
 それではお体ご自愛下さいませ。    かしこ

(こちょうのおきな・珠数師)
平成11年8月掲載 宗教工芸新聞より抜粋