拝啓、虫の音美しいころ日野阿聞様におかれましてはいかが御過ごしでしょうか。以前の日野様のご質問にお答えさせていただくにあたり水晶に関して非常に長くなり誠に申し訳御座いませんでした。しかしこれで水晶についてはご理解いただけたと思いますので続いて「星月菩提樹」についてお答えさせていただきます。まず「菩提樹」について説明させていただきますが、これが又非常に不透明な存在だといえるのではないでしょうか。
「菩提樹」というのはご存知のとおり「お釈迦様が悟りを開かれたのが菩提樹の木の下であった」ということで、木の実の商品については全てといっても過言でないほど「菩提樹」と名前が付いているというのが現状だといえるでしょう。
しかしまあこれはビジネスの問題ですからこの名をつければ売れるとなれば、ある程度不可避なことといえますのであまりこの点に触れることも必要ないでしょうし、メーカーと小売店様との間でも阿吽の呼吸で構わないかもしれません。
しかしこれが消費者に対しては問題があるのではないかと思っております。それほど詳しい商品知識の無い方が多いので説明不足の感はぬぐえず、私の経験では一般消費者の多くの方が「菩提樹」といえば「金剛菩提樹」を示されると感じております。
しかし逆にお寺様は「菩提樹」といえばもうこれは「星月菩提樹」を選ばれますでしょう。どうしてこの差が出てきたのでしょうか。この点をご一緒に考えてみたいと思っておりますのでご意見御聞かせ下さい。
小生の見解ではかっては、「金剛菩提樹」の方が「星月菩提樹」より価格も安く手ごろな商品として一般受けが良く、見栄えもごつごつとして色合いも落ち着いている(星月菩提樹の色合いの方が派手に見える?)ので定番商品として多く出回っているからといえるでしょうか。
しかし現実には「星月菩提樹」以外の「菩提樹」と呼ばれている商品=「金剛樹」「鳳眼」「竜眼」「虎眼」「天竺」「蓮華」といった木の実の商材のほとんどに虫が付く欠点があります。完全に枯れた状態であったり毎日使用されれば問題は御座いませんが戸棚や引き出しなどにしまわれたりされ密閉状態のままですと防虫処理はされておりますが残念ながら穀倉虫のような虫が珠に入って中通糸を食べてしまって切れるという具合です。そう言う意味では販売しづらい商品だといえますでしょうし、クレームの対象に充分なりますが、これもまた小売店様との阿吽の呼吸といったところでしょうか。このように実際問題のある「菩提樹」より「星月菩提樹」の方が「お珠数屋さん」にとっては販売しやすく高級商品として非常に重宝であったのにも拘わらず価格がここ数年で急落してしまいました。ご質問はその理由でありましたがその続きはまた次回に。それではお体ご自愛下さいませ。
あなかしこ
(こちょうのおきな・珠数師)
平成11年9月掲載 宗教工芸新聞より抜粋