京都の老舗の数珠屋さん 中野伊助

 数珠つなぎコラム

「菩提樹について」その2

 拝啓、木々のこずえも色づく頃、貴殿におかれましてはいかが御過ごしでしょうか。
 さて私も老体に鞭打ち、額に汗しながらもようやくこの連載も半年を過ぎましたが、多少は反響もあるらしくいささか気恥ずかしい気持ちでいっぱいなのです。ところで実は前回の中で「菩提珠」の種類を挙げさせていただいたところ編集部に届いた声の中で「今までいったいどれだけの菩提珠があるのか」というのが御座いました。そこで私の何十年におよぶ経験の中から、あるいは最近のものも含め耳にしている範囲内で「菩提珠」の名前を列挙させていただきたいと思います。前回挙げさせていただいた七種類以外に「天山」「高野」「紅(くれない)」「五眼(五仏眼)」「インド竜眼」「インド虎眼」「インド蓮華」「五条紋」「日月」「縞星月」「インド星月」「天異」「華金剛」亜流ですが「菩提根(種)」といったところでしょうか。これ以外にも御座いましたら遠慮なく編集部の方までどしどしご意見およせ下さい。それでは本題に戻りたいと思います。
 さて、「菩提樹」を調べますと一般には一、シナノキ科に属す落葉高木で中国原産。高さ五メートル前後になり、夏に小さな黄色い花をつける。とありますが他の「菩提樹」は二、クワ科の常緑高木でインド原産。高さ三十メートルにもなり、無花果状の実をつけるインド菩提樹がそうであるとなっております。一、が「高野菩提」で二、が「悟りを開かれた菩提樹」となりますか。ただもう一種類「洋菩提樹」というのがあって有名なシューベルトの歌曲「菩提樹」がそれでドイツに並木道があるのですが、その実は小さくて柔らかく落ちるとつぶれてしまいとても珠数に出来るものではないそうです。一、も小さな実ですからそんなに多くの種類の珠数を作るわけにもいきませんし二、も小さすぎてとても無理です。三、は上記のとおりですからそこでいよいよ海外で某氏が考えました。「何とか菩提珠と言うことで珠数にして売れる実はないか」と。そんな中でとうとう見つかりました。これなら大きさも多種多様で毎年取れて加工もしやすい実、それが「星月菩提珠」だったのです。驚いたことにこれは本当は「木の実」ではなく「草の実」です。「籐」の種類に属し現地では「紅籐(子)」「沙籐(子)」と呼ばれております。又、「紅籐(子)」は直径十ミリ程度までしか育たないので違う地域で収穫できる「沙籐(子)」を使用したり致しますので厳密には違う種類(同族ではありますが)の実を使用しているといえますでしょう。これらはその大きさと星の数の違いで簡単に区別できます。
 誠に残念ながら紙面に限りが御座いますのでこの続きは次回に。それではお身体ご自愛下さいませ。           あなかしこ

(こちょうのおきな・珠数師)
平成11年10月掲載 宗教工芸新聞より抜粋