拝啓、ゆく秋の寂しさ身にしみる頃、貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
しかし、いかにも珠数というものは不透明なものだという風に貴殿もお考えになっていらっしゃることでしょうが、私もこうして書かさせていただいているうちに「確かに不思議な存在だなあ。」と思わざるをえません。またひとつ「そう言えば」というのが出てきたのです。つまり「菩提樹」と表記する場合と「菩提珠」と明示する場合です。そんな事はどちらでも良いとおっしゃる方も多いかとは存じますが、私は在職中は何とは無しにどちらも使っていたように思われます。
実は編集の方からのご指摘であったのですが、辞書で調べてみましたり、古い書物を紐解いて見ますと「菩提樹」の方が多かったのですが、「お珠数屋さん」は「菩提珠」も結構使用されているようにも思われます。たとえば良い例が「金剛樹」や「金剛珠」です。「星月」や「鳳眼」は「星月珠」とか「鳳眼樹」と言いませんが「金剛」の後には必ず「珠」か「樹」をつけますので、そうしますといったいどちらが正しいといえるのでしょうか。第一回で書かせていただいたように数学の問題のように決まった答えはひとつだけというものではないとしか言いようが無いというところでしょうか。
やはりまったくもって不可思議なものだと改めて思われてしかたありません。同業者の方々で品名の統一を一度協議なさってはいかがなものかと思われます。その方が小売店様にとっては都合がよろしいでしょうし、また何かと便利にはなるのではないかと思います。どうでしょう?全国の珠数屋さんで御検討なさってはいかがでしょうか。
さて、また前置きが長くなってしまいまして申し訳御座いません。「星月」の価格が下がった理由ですが、一、技術の発達 二、利用法 三、内輪もめ の三理由が重なったという風に聞いております。一、は元々自然に生えてくる実ですからその昔はいろいろな色目があってもそれを統一することは出来なかったので茶系統、ベージュ系統、白系統といったように多くの実のなかから選んで、利用の仕方に限りがあり非常に歩留まりが悪かったということです。ところが近年技術の発達とともに歩留まりが良くなりました。それは一度すべての実を脱色・漂白し、それから改めて色をお好みにつけ直すことが出来るようになったからです。だからほとんど全ての実があますところなく商品に使用出来るようになったのです。しかし、欠点も同時に出来まして漂白のしすぎで実がぼろぼろになってしまい、まるで軽石のような感じになり簡単に割れてしまうようになりました。これでは販売してもクレームが出る可能性が非常に高くなり、かえって評判を落とすことになり兼ねません。それで今では「星月」もA・B2種類使用されている「お珠数屋」さんが増えてきているようです。腕輪には粗悪品はてきめんにその効果が出ますのでご注意下さい。見た目にも分かりますので区別しやすいかとは思われます。
嗚呼、紙面がなくなりましたので続きはまた次回に、それではお体ご自愛下さいませ。
かしこ
(こちょうのおきな・珠数師)
平成11年11月掲載 宗教工芸新聞より抜粋