拝啓、初春とはいえ厳しい寒さの中、貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。さて、新年を迎えたにあたり考えることは、やはりこの業界も今年はどういう風に変わるのかというところでしょうか。
一九九九年は空前絶後の不景気で御座いました。そして、二〇〇〇年はその不景気も一段落し、徐々に景気も回復してゆくのでしょうか?しかしながら私がおりました宗教用具業界は今この瞬間に景気が回復したとしても数年は遅れをとる業種ですからまだまだ辛抱の時期ではないでしょうか。
しかし、いずれきっと夜のあとにはかならず朝が来るように、厳しい冬の後にはさわやかな春が訪れるように、世の中も良くなってゆくでしょう。それまではとにかく我慢我慢。そしてこの間に何が出来るかを考えておくことが必要でしょう。そしてそれは必ず後々役立つことになるでしょうから自分自身を信じてがんばりましょう。
それではこの辺りで本文に戻すことに致しましょう。今回は「珠数」の各部分について語らせていただきます。
まず「親珠(玉)」、「天珠(玉)」についての言葉とそれを示す部分は貴殿はご存知と思いますが「ボサ」、「露珠(玉)」についてはいかがでしょうか?結構この玉の部分をご存じない方が多いように思います。「ボサ」は分かりやすい説明としては片手珠数のときに使用される部品で「親珠」と繋がってついていて房との間にある「釣り鐘型」の部品です。そして「露珠」は二輪珠数の時に使用されていて、弟子珠の下部分に繋がってついている「涙型」の部品です。この二種類の言葉を物は分かっていても名前が分からない方が相当いらっしゃたように思えます。
続いては「より房」についてです。「より房」はご存知のとおり「正絹房」と「人絹房」の二種類御座います。「正絹」は説明するまでも御座いませんが「人絹」は説明が要りますでしょう。「人絹」の質は「レーヨン」です。「レーヨン」のもとは実は「パルプ」ですので、そう致しますとこれは環境破壊に繋がってきています。「パルプ」のもとはご存知「木」だからです。それに加えて「レーヨン」を製造するメーカーがもうなくなってきているという事実をご存知ですか。世界の繊維関係は現在「ポリエステル」を中心とした石油製品になっていますし、又、製造のコストが合わないのでこの先「レーヨン」は製造されない可能性もあります。もちろん「房製造業者」も「レーヨン」に変わる繊維をいろいろ研究はされていますが良い物は見つかっておりません。ですがある意味では「珠数」の価格の底上げになって良いのかもしれません。
現役の頃から私は、手作りの商品にしては価格が低いと思っておりましたものですから。貴殿はいかがお考えでしょうか?
それでは寒い日がまだまだ続きますので、お体ご自愛下さいませ。 かしこ
(こちょうのおきな・珠数師)
平成12年1月掲載 宗教工芸新聞より抜粋