京都の老舗の数珠屋さん 中野伊助

 数珠つなぎコラム

「珊瑚について」

 拝啓、春とは名ばかりでまだ真冬のように寒く、冬の名残がなかなか去らない時期では御座いますが、貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
 さて今回は日野阿聞様のご質問であります「珊瑚」について述べさせていただきましょう。日野様のご質問は「珊瑚に染めはあるのでしょうか」というものでありましたが、もちろん御座います。珊瑚は多孔質のため着色しやすいのですが、これについては第三回に述べさせていただいたことと同じです。それでは「珊瑚」について少し学術的ですがご参考までにお付き合い下さい。珊瑚(coral)は、珊瑚ポリープという海洋動物の残存骨格で出来ています。この微生物はコロニーを形成し、成長すると枝状になり、ついには珊瑚礁や環礁を作り出します。珊瑚の「枝」には、縞や木目の、元々の骨格に関係する特徴的な模様があります。珊瑚の多くは赤、白、ピンクなどの色を醸し出す炭酸カルシウムが主成分で、黒や金色の珊瑚は、コンキオリンと呼ばれる角質の物質から出来ているそうです。
 珊瑚の中で最も価値が高いのは赤珊瑚で、数千年も前から宝飾品に使用されてきました。始めは無光沢ですが、研磨するとガラス光沢を示します。しかし、熱や酸に弱く、身につけると色が褪せてきます。酸性質の汗をお持ちの方がまれにいらっしゃいますので、その方には珊瑚や真珠といったものは不向きで、すぐに光沢がなくなります。さて良質の珊瑚はほとんど温水域に産し、日本の珊瑚は赤やピンク、白色をしています。赤やピンクの珊瑚は地中海、アフリカ沿岸、紅海、マレーシアやフィリピン沖合いなどに産し、また黒珊瑚(海松と呼ばれています)や金色の珊瑚は、西インド諸島、オーストラリア、太平洋諸島の沖合いに産します。珊瑚のイメージは「産後の肥立ちが良い」ということから、子供の保護を連想し現在でも親が子に珊瑚を贈る習慣があります。しかし珊瑚も乱獲や環境保護の面からも注目を浴び、ワシントン条約で採取の制限を受ける可能性が出てきております。
 日野様のご存知の深海珊瑚は、近海で取りすぎたために今や日本海溝などの深海でしか採取出来ず、きれいな赤珊瑚はもはやほとんど取れなくなっていてその名が付いている次第です。
 人間はあらゆる面から環境保全、自然保護を考え意識改革を迫られているような気が致します。プライドやメンツを捨て去ることを出来るかが第一歩だといえるのではないでしょうか。
 それでは寒い日がまだまだ続きますのでお体ご自愛下さいませ。 かしこ

(こちょうのおきな・珠数師)
平成12年2月掲載 宗教工芸新聞より抜粋