拝啓、寒さも緩み日増しに暖かさを増し、小川の水もぬるみつぼみも膨らみ、そして木々の緑日ごとに色めく季節となりましたが、貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
早いものでこの連載もまる一年を迎えることになりました。編集部の方からお話を頂き軽い気持ちでお受けしたものの七転八倒、毎回産みの苦しみを味わっている今日このごろでは御座いますが、ここまで何とか来れましたのも読者の皆様方の厚いご支援ご鞭撻の賜物だと感謝いたしております。
それにいたしましても「珠数」というものは不思議なものだということがこの一年を振り返って見ますとつくづく感じ入るので御座います。今まで分かっていそうでわからないこと、知っていそうで実は知らないことがたくさんあるように思えます。細かく文献を調べたりして初めて解ったことなどこの一年で沢山御座います。当たり前のように説明させていただいたことが実は表面的なことだけで真実は別のところにあるといったことが多々あったように思えます。
現役を退かせていただくまで何十年とこのお仕事をさせていただきましたが、人生やはり死ぬまで勉強だなとつくづく感じ入っております。この先そう永くはお付き合いさせていただくことはできないかもしれませんがそれまでは「珠鬘」をどうぞ見捨てずにおいていただきますよう伏してお願い奉ります。
それではこの辺りで本文に入らせていただきましょう。今回からは再び貴石・半貴石について述べさせていただきます。
第三回から水晶について第六回まで述べさせていただきましたがその際、水晶というのは総称して「石英」の分野に含まれるとさせていただいておりますので、ここからはその他の「石英」に含まれる結晶体について述べさせていただきましょう。
第五回にもありますが水晶以外に紫水晶・紅水晶・煙水晶・黄水晶などがございますが、まずは紫水晶から。amethystはブラジル、南アフリカ、ロシア、カナダ、スリランカ、インド、ウルグアイ、マダガスカル、アメリカ、ドイツ等に産します。産する地域によって色合いに違いがあり、赤みがかっていたり、菫色だったり色々のようです。紫水晶には特徴としてほとんどの場合インクルージョン(含有物)が御座います。かつては宝石の傷とみなされておりましたが、今日では石に面白味が加わった、と考えられるようになっております。又、熱処理によって黄色に変化させ、後程述べますシトリンにしたりしております。
それでは紙面がなくなりましたので続きはまた次回。
かしこ
(こちょうのおきな・珠数師)
平成12年3月掲載 宗教工芸新聞より抜粋