京都の老舗の数珠屋さん 中野伊助

 数珠つなぎコラム

「ローズ クオーツ」

 拝啓、吹く風も夏めいてうっすらと肌も汗ばむ季節、貴殿におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。この季節になってきますと、そろそろ半袖で街を歩いておられますのが目に付くようになってまいりました。かつての仕事柄ついつい手首の辺りなどに目線をうつしますと、結構多くの人の手に腕輪珠数をしていらっしゃるのが見えまして、何とはなしにうれしいような気分になっております。若い人の雑誌を読んでみますと珠数ビーズがはやっているそうですし、海外でもオリエンタルブームのひとつでやはり珠数ブレスが流行だそうです。
 どういった理由であるにせよ、あるいはどういった形にせよ“珠数”が眼につくようになるというのは良いことだと思います。今まで私たちは裏方でありすぎたのではないでしょうか。もう少し、ほんの少しでいいですから前に出てみるのもいいのではないでしょうか。そうしませんとこの業界も海外業者に穴だらけにされませんでしょうか。引退した身とはいえそれが心配でなりません。次の世代の方々が喜んで仕事に打ち込めるような、そんな業界になってほしいものです。
 さてそれでは前回の続きで御座いますが、他に水晶系と致しまして紅水晶「rose quartz」があります。主にブラジルに産しますが品質が良いものは透明感がありますので最近出回っているのは(価格が安い物は)ほとんどB級品といってもよい物だと思います。しかも尚その上に染め物なども出回っているそうで、こうなってきますと混沌にもほどがあるといった感はぬぐえません。小売店様も価格ばかり追求されないで品質にも気を配っていただかなければ、より一層目茶苦茶になる可能性が高くなってくるのを憂慮いたします。
 最近の不景気の中で倒産や自己破産が数多くでてきて新聞紙上を賑わせておりますが、たとえばよい例が呉服和装業界だと思います。(その筋の関係者の方には例にあげてお詫び致します。)もう時代の流れで呉服を着られる方は非常に少なくなってきておりますし、今は完全に固定客の頻度買いになっているそうです。倒産の理由の一つに海外で製品を安く作り、最初は良かったのですが裏目に出てだめになってしまった会社が数限りなく出ているわけです。流通の問題など様々あるにせよ、仏壇仏具業界も非常に似た業種だといわれているわけですから、良い反面教師だと思って同じ事を繰り返さないようになってほしいものです。現地で売れないものを、日本でしか売れないものをどうして大量に安く作る必要があるのか理解できません。もう一度今からでも考え直してください。残念ですが紙面がなくなりましたので続きはまた次回。   
       かしこ

(こちょうのおきな・珠数師)
平成12年5月掲載 宗教工芸新聞より抜粋